2 自覚・リナリア

 

「だって、私は神様に愛されているから!」


 これがリナリアの口癖だった。

 実際に特別で、可愛らしい子供だったが、皆が「可愛らしい」「お歌がじょうずだね」と誉めてくれるのは、全て加護という恩恵のお陰だと思っていた。

 お世辞のようなものだと、幼心に感じていたが、生来の自分に自信が持てなかったため、強気な性格を演じるようになった。

 本当の自分は誰にも好かれないと思っていた。

 強気が我が儘に、我が儘が高慢に。年を追う毎にリナリアは自分は特別だと暗示をかけた。

 特別だから、祝福があれば、母の体も良くなると信じたかった。

 母はいつも優しかった。どんなリナリアも嫌わないでくれた。

 リナリアは母に対して偉ぶることはないが、友人に対する態度を見られても、一度も咎められたことはなかった。


 この世界の人々は神様に寄り添い、信仰している。

 数いる神様の姿や、名前を知ることは出来ないが、存在は誰もが知っていた。

 ほんの少しの魔法と、恩恵を受けることで、確かに感じることができたからだ。


 世界中のどこにでも、神様はいる。

 リナリアが住む街は、特に、直接の加護を受ける者が生まれる事があった。

 恩恵は全ての人が受ける。

 加護は、特定の人に与えられるもので、生まれる頻度は多くない。

 また、加護を受けるのは必ずしも生まれる時だけではなく、善行を積んだ者が、晩年、加護を受けたという話もある。その者は、来世の幸福を約束されたと言われている。


 リナリアは加護を受けて生まれた。産み落とされた瞬間、体の周りを淡い色彩が包み込み、光が舞った。それは幻想的に美しい光景だった。

 神様から愛されて生まれてきた証である。

 裏付けるように、リナリアは赤子にも関わらず、絶世の、と言ってもいい、愛らしい顔立ちをしていた。

 くりくりとした青い二つの宝石が、絶えず零れる笑顔が、鈴の声が、人々を夢中にさせた。


 誰もがリナリアに優しかった。



「ねぇ、あのこ、見たことないわ。だれ?」


 五歳のリナリアはその日、教会で見慣れない子供を見掛けた。

 話しかけられた子は、リナリアと会話出来るのを嬉しそうにしながら、知っていることを全て教えた。


「ちょっとまえに、この街に引っ越して来た子だよ。カーネリアンって言うんだ。リナリアの一個上で、六歳だって」


「ふぅん……」


 カーネリアンも街の子同様、教会に通うようになった。

 他の子と違うのは、彼はリナリアと積極的に関わろうとはしなかったこと。

 邪険にするわけでも、避けている訳でもない。

 話しかければ会話はするが、リナリアに興味が無いように見えた。

 リナリアはいつも、つい、カーネリアンを目で追ってしまう。

 後ろから緩やかな茶髪を見るたびに、できれば正面から、赤茶色の瞳を見たいと思う。

 気さくで、優しげなカーネリアンは、すぐ周囲に溶け込んだ。

 リナリアはいっそ神々しく、近寄りがたい所もあったが、カーネリアンは壁を感じさせない、穏やかな人気者だった。

 リナリアは、カーネリアンのことが気になって仕方がなかった。



 十歳になる頃には、リナリアは流石に恋心を自覚していた。

 教会に来て歌う時、カーネリアンにも、誉めてもらいたかった。五年の間に、リナリアからカーネリアンに引っ付くようになり、二人は一緒に居ることがほとんどだったが、リナリアにもまた取り巻きがいたので、特に二人が仲良しに見える訳ではなかった。

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