第39話


 実装されたシステムの正体、それは新ガジェットの実装である。実装されたのは――。

【ブーメランか?】

【ヨーヨーでは? あの挙動はそれっぽい】

【一時期、ブレードで手斧みたいに投げる戦法もあったな。さすがにガジェット破損の危険性もあったかもしれないが――】

【あの挙動であれば、伸縮式パンチとかでは?】

【確かに――投射系武器なのは間違いないだろう。しかし、実際にガジェットを投げている訳ではないように見える】

【投射なのか? 直線的な挙動――とは違うようにも思えるが】

【動画を見ただけでは分かりづらい。それに、武器の形状も不明確過ぎて――】

 ネット上の様々な発言が拡散されているが、動画サイトにある関連動画を見ると――共通してある物を放っているようにも見える。

しかし、それがどのような物が動画では判断しづらい事情もあって、こう言った不明確な話が拡散しているのだろう。

「このガジェットは――まさか?」

 導入から数日後、三月二五日にはアイオワが真相を確かめる為にオケアノスへと向かった。

他のプレイヤーが使っているような形跡はないので、自分で使う羽目にはなったのだが――その挙動は想像以上の物だったという。

そのプレイを見たプレイヤーからは様々な声があったのだが、アイオワはそれを無視してリズムドライバーとは別のARゲーム筺体へと向かおうとしていた。



 その同日には――リズムドライバーに関する重大発表が行われた。

それを行っているのは、何とオケアノスの運営――ARゲームの運営よりも上の存在である。

これには様々な驚きがあったという話だが――。

『我々は、遂にチートの元凶を発見し、それを排除する事に成功しました』

『皆さまには今回の件で不自由を強いられる事となり、大変に申し訳なく思います』

『オケアノスとしては、皆さまに安心してARゲームをプレイしていただけるように全力をかけてパッチを作成中であり――』

『これによって悪質なチートや不正ガジェットを一掃できるでしょう』

『しかし、我々は――これだけで終わるとは思っていません』

 ARゲームで使用されるのセンターモニターではなく、オケアノス内のニュース用モニターで放送されている辺り――何か含む部分もある。

その証拠に、画面には特に画像は表示されずにサウンドオンリーと言うのも怪しさに拍車をかけていた。

画面には別のニュース記事――まるで扱いが副音声と同じである。

『我々は、今回の一件が特定のまとめサイトやネット炎上勢力の――』

 しかし、そこから先はノイズと共に――途切れてしまった。厳密には、妨害されたというよりも――。

(あの人物は―ーまさか!?)

 別の筺体へ向かおうとしたアイオワが見た映像の人物――それは動画サイトで有名なバーチャルゲーマーだったのである。

旧スク水、目立つ装飾がないようなコート、黒髪のポニーテール、目は明らかに萌え系を思わせ、更にはメガネ、身長は一五〇より上のように見えるが――貧乳だけは分かった。

『この配信を少し借りるぞ――』

 明らかにビジュアルと声が若干釣り合わないような――むしろ、声の方はサンプリングとは違うが電子的なノイズも聞きとれる。

何かを喋ろうとするときにも、中二病的なポーズを決めてみたりするのは――明らかにアレだ。

『私の名前はユニコーン。何処ぞやの小説か何かで同じ名前のバーチャルゲーマーがいたとしても、それは別人だ』

 彼女はユニコーンと名乗るが、名乗りの度というか一言しゃべる毎に何かを気にするかのように視線を少し変えたりしている。

『しかし、お前達はリズムドライバーと言うゲームの運営に利用されているとは思わなかったのか?』

『それをネット炎上に利用する為、アイドルの宣伝として放置し続けた結果が――あるプロジェクトを失敗させた』

『リアルゲームプロジェクトと言う計画は聞いた事があるだろう。聖地巡礼に似たような物を草加市がシステム化しようとして――失敗したがな。芸能事務所の暴走で!』

 芸能事務所の――と言った辺りで、彼女は右の親指と人差し指を使って――指を鳴らした。

鳴らしたと同時に表示された映像の数々、それは過去に草加市でリリースされていた様々なニュース映像であり、どう考えても――。

『こうしたネットやSNSを利用した計画――ネット炎上を一種のテロと認識し、そうした炎上行為を阻止しようとも動きだした』

 流れている映像の中には、アイオワと思われる人物やスノードロップ、ジャック・ザ・リッパーも確認出来た。

それ以外にもアイオワの知っているリズムドライバーのプレイヤーも確認出来た事で、ユニコーンの狙いはSNSテロとも推測する。

『だが、こうしたマッチポンプがコンテンツ市場では炎上合戦を呼び――それこそSNSテロを生み出した。だからこそ――自分がこの炎上を止める――』

 ユニコーンの浮かべた笑み、それは明らかに何かを狙っているとしか思えないような物であり――それこそSNSテロを自分で起こしているような物とアイオワは感じた。

しかし、ユニコーンの演説も途中でノイズが入る形で中断、数秒間は真っ黒な画面が流れ――その後に普通のニュースが流れていたのである。

まるで――先ほどの発言が一部の特定プレイヤーにしか聞き取れないような――。

実際、アイオワはARメットを装着はしていないのだが――同じように装着していない一般客は何事もなかったかのようにそれぞれの目的地へ向かっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る