第20話
午後七時になると、ビールなどを持ち込んでプレイする様なプレイヤーも出ると思われるのだが、あくまでもARゲームでは禁酒である。
中には乗り物に乗るような物もあるので、下手をすれば飲酒運転になりかねないと言う理由もあるようだ。
しかし、本当にそうだろうか? 家庭用ゲーム機でのVRゲームでは飲酒プレイがごく稀にあるかもしれない。
それを踏まえると――ARゲーム側の対応はやり過ぎの声もあった。ネット上でもそうした意見が大半で炎上しているような――気配さえもする。
ネットの場合、多数決の意見に便乗する様な勢力も多く、中にはまとめサイトに利用されてタダ乗り便乗やアフィリエイトで儲けようと言う人間もいる以上――そう言う事になるだろう。
プレイヤーの顔触れも、この時間になると若干の入れ替えがあるだろう。ARゲームの場合は年齢制限があると言う事もあって――。
(乱入してくるプレイヤーもパターン化しているような――)
三番台でプレイしていた夕立(ゆうだち)は、既に三プレイ以上はプレイしている。
格ゲーにおける乱入プレイではなく、あくまでも対人戦はマッチングと言う事になっているので、負けたとしてもそこで終了にはならない。
夕立のプレイを見ていたギャラリーは何もしゃべる事はなかった。逆に、その方が彼女にとっては都合がよいのだろう。
彼女のARアーマーは汎用アーマーなのだが、唯一の違う個所はボロボロのマントである。ARメットは被っているので、当然だが素顔は見えない。
ARメットがゲームのシステム画面表示等も行う為、相当な事がない限りはメットを被ってのプレイが多いだろう。
夕立の撃破したプレイヤー数は十人を軽く超えているが
――最大四人対戦まで設定されているらしく、撃破数が多いのはその流れかもしれない。
基本的にはデータ処理の関係で一対一がメインと言う場所が多い一方で、試験的に最大四人対戦を実装していたのが草加市にあるオケアノスと言えるだろう。
様々なテストが多く行われている中、ARゲームでも新システムはオケアノスで先行導入される機種もある。
一方で、草加市内にある一軒家――そこの十畳と言う広さの部屋におかれた三十インチクラスのLED4Kテレビが専用のテレビ台の上に置かれていた。
テレビ以外にはテーブルや椅子もあるのだが、どう考えても公民館等でも使う様な折りたたみテーブルにパイプ椅子である。
それに、周囲の装飾などは個人の家とは思えないようなイメージでもあった。まるで、市民ホールで貸し出すような一室という表現が正しいか?
そして、貼られているポスターや飾られているフィギュア、それ以外にもゲーム機が置かれていたりするこの部屋は、ある意味でも配信用の部屋とも言うべき部屋だったのである。
耐震性を強化し、その外見はまるで高層ビルの様なイメージとも言われるが、これでも個人の一軒家であって賃貸等ではない。
配信用の部屋も複数あるので、バーチャルゲーマー等に向けての配信部屋として時間貸しも行っている。
あくまでも宿泊施設ではないのだが――コミック関係のイベント等では臨時宿泊施設にも使われている現状もあったりした。
「やっぱりと言うか――あのニュースを取り上げる気にはならないか」
何時もの下乳を見せるようなシャツにグレーのジーパン、部屋着とは思えないような服装でアイオワはテレビのニュースを見ていたが、途中でチャンネル変えてしまう。
彼女の言うニュースとはネット上でも問題視されていたチートに関する部分だ。
別のゲームでもチートに関する箇所は炎上しやすく、まるで実在する歌い手や実況者のナマモノ小説みたいな扱いをされる事が多い。
(このニュースも埼玉県全体として見れば、草加市ローカルと言う認識か――)
テーブルに置かれたペットボトルコーラを片手に、ラッパ飲みをする。
(とにかく、賽は投げられた以上――やる事はやるべきか)
ニュースで取り上げられていないとは言っても、内容が内容だけに無視はできない。
リズムドライバーはサービスを開始したのである。もう、後戻りはできないのだ。
『零を一にする事は出来る――だからと言ってなかった事には出来ない』
『このネット炎上をなかった事にするなんてできない!』
『我々は――動き出した。一部の特定業者だけが儲かるシステムが不要である事を――証明する為に』
アイオワの見ていたテレビではCMが流れているのだが、そこには様々なアニメ作品の台詞が――表示され、場合によっては喋っている本人が出てきたり、オリジナルキャストが喋ったりする。
それを見て、彼女はある印象を持ったのだが――それは、このCMのメッセージ――根幹にも関係するであろうものだった。
『SNSテロが及ぼす被害――見て見ぬふりなど出来ないぞ!』
『一部勢力だけが欲望のままに動き、暴走する時代は――終わらせる!』
その後も様々な台詞が出てきたのだが、あまりにもフラッシュバックしている量が多くて、反応が追い付かない。
しかし、アイオワには――このCMが訴えたい物の意味が分かっていた。
《SNS炎上、ネガキャン――やめませんか?》
《だからこそ――利用はやめよう! 悪質まとめサイト》
最後の二つのメッセージ、それが全てを物語っていたのである。
このCMを目撃したプレイヤーたちは、これから起こる事が犯罪である事なんて――気付きもしなかったのだから。
草加市以外では当然の如く行われている事が、草加市では犯罪となる。まるでローカルルールのそれであり、草加市だけが異世界と言われても――。
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