平凡な日々

ささやか

第1話 恋愛

 男もすなる小説とやらを書いてみようと思ってパソコンの前でディスプレイとにらめっこしてから数分、小説の書き方なぞさっぱりわからないということに気づいた私のディストピア感を理解できるものがいるだろうか、いや、いない、ので目の前の箱でHow to小説を検索すればよいのかもしれない、ああ、はいはいGoogleGoogleですネ。

 しかし私が閃きました、そうだ、隣の山田山田さんが雑誌雑誌をライターして書いているのだから彼から教われば万事解決、ミリオンセラー大作家への階段をホップステップデストロイであると、なればさっそく私はお気に入りの青いワンピースを着て、山田山田さんを訪ねるのです。

 私たちが居住しているマンションはどぶの臭いがどこからか漂ってくるので制服にどぶの臭いが染みついてしまわないか心配になるんだけどそれはさておき、山田山田さんの部屋の扉を金属バットで殴打してこじ開けることに見事成功した私は善は急げと侵入する。

 山田山田さんは部屋でうごうぐとカップラーメンを捕食していた。

「お願いがあるんです、私に小説の書き方を教えてください、ベストセラーを適当にヒットさせてだらだらと仕事をしない生活をしたいんですそれが私の将来のたった一つの夢希望その他諸々以下省略なのです」

「とりあえず死ねば」

 なんて非道ひどいことを言うのでしょう、私は激怒した、必ず、かの邪智暴虐な山田山田さんを正さなければならぬと決意した、私には小説がわからぬ、私は女子高生である、SexDrugRock'nRollと遊んで暮してきた、とりあえず山田さんの禿げ散らかした頭部に金属バットで全力フルスイングした。

「そもそも」側頭部から出血し、右方向へポキリと首が曲がった山田山田さんが言う。「小説と一口に言っても様々なジャンルがある。君はいったいどんな小説が書きたいのかい?」

「ですから、とりあえずベストセラってその印税でがっぽがっぽ生活できるような小説が書きたいんです」

「君は人の話を聞いているのか? 僕は書きたい小説のジャンルを訊いているんだ」

 私がもう一度彼の頭に全力フルスイングして、今度は首が直角に折れ曲がり、山田山田さんの家はアダルトビデオと成年漫画で溢れ、ピンクい18禁地帯となっていたが、こうして無事に山田山田さんも18禁的存在になれたのであった、めでたしめでたし。

 物理的にだいぶ頭にきている山田山田さんだがどうやら精神的にもずいぶん頭にきたようで、タラバガニのような奇声をあげ襲いかかってきて、ふふん、そんなのヨユーだぜとか思っていたら、男性の腕力には勝てず私はそのまま山田山田さんにレイプされて処女を喪失してしまった。

 嗚呼、なんということだろう、私のたった一回しかない幸福が奪われてしまった!

「レイプは犯罪です」

「そうかもしれない。けれど自らの望むままに行動することがいったいどうしていけないんだ?」

「他人に迷惑をかけるからです」

「その他人とやらは果たして自己の欲望を抑制するだけの価値があるものなのか? いや、違うね。僕あっての世界さ」

「うるさい、性犯罪者は死ね」

 私が三度目の全力フルスイングをすると、山田山田さんの頭はスパコーンと吹っ飛んで、エロDVDの山に激突したので、その中から適当に『モロ出し人妻ファイヤー』を選んで視聴してみると、私より美人と呼ばれる可能性が否定できないAV女優がアンアンパンマン喘ぎだして、果たして私はどうすれば幸せになれたんだろうと悲しくなって泣けてきた。

「そんなのはこのとおりSexDrugRock'nRollで解決さ」

 山田山田さんは頭と胴体が分かれているのに、ビンビンな勃起を器用に右手で上下にしごき、そうして白濁的なあれが死ね。

「君は誰かと付き合ったことはあるかい?」

「ないです」

「それがいけないのさ。恋愛至上主義を謳う気はさらさらないが、恋愛ってのは生殖につながる行為であって人間の根源に基づくものだからね、やっぱり恋愛をして異性とコミュニケーションを取るっていうのは大事なことなんだよ、うん」

「だけど好きってよくわからないです」

 自分の感情を定義することは本当に難しくて、喜怒哀楽さえそれが世間一般で定義されているそれであるのか確証が持てなくて、恋愛は永遠のドラマとして世間に満ち溢れているくらい様々な解釈や展開があって、つまりは複雑なのだよって、ねえねえ、だから好きってどんな感情のことをいうのかわかりやすく誰か教えてよ。

「アハハ、君もまだ子どもってことなんだね」山田山田さんが快闊に笑う。「好きっていうことはつまりはセックスをすることさ。だからセックスをした僕らは相思相愛ってわけさ」

 なるほど、そうだったのか目から眼球が落ちる思いだったので、私は山田山田さんを好きになったということになったが、AV女優が五月蠅くて仕方なかった。

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