第20話
再び探索を開始する。といっても2階から4階までと同じく戦闘では苦戦する要素が無い。新たにスケルトンがバリエーションに加わったがゾンビに比べて少し動きが早くなった程度で脅威ではない。
10階のボスはアイアンゴーレムだったが、宵闇の性能をもってすれば鋼鉄程度はバターの様に切れる。まるでロックゴーレム戦のリピートの様な展開で、数秒で倒してしまった。そのままおそらく丁度正午位だろうとボス部屋で食事をとった。魔物が出現しないボス部屋で休息を取るのはダンジョン内では定番だ。
その後も〈自領域拡張〉で正しい道を選び続け、あっという間に14階から15階への階段に到着した。アダマンゴーレムを倒せない冒険者たちが階段を椅子代わりにたむろしている。
その中から戦士の見た目をした男が話しかけてきた。
「お、新入りかい?」
「ああ……しかしダンジョン内で冒険者は不干渉が基本なんじゃなかったのかい?」
ダンジョンでは死体は消える。これはダンジョン外の生き物にも適応される。その法則を悪用しようと、ダンジョン内では迷宮の盗賊“迷族”が出るのだ。そのため、冒険者同士でもダンジョン内ではよほどの危機でなければ不干渉が基本とされている。
「あ、すまない。確かにダンジョン内だったね。ここの皆はアダマンゴーレム相手に挑戦を続けててね、何日も一緒にいるからつい、同じノリで話しかけてしまったんだ。気を悪くしないで欲しい。」
彼の胸元には金の冒険者証が輝いている。毒気の無い雰囲気だが、人は見かけによらないものだ。
「金ランク……皆、金ランクなのかい?」
「いや、金ランクは2人だけだ。後は銀が4人と銅が2人。」
「ふむ……それだけの人数で倒せないのか。アダマンゴーレムは。」
「ああ、かなり手こずってる……よかったら君も手伝ってもらえないか?」
「一度アダマンゴーレムと手合せしてみてだな。」
「……引き際は誤らないようにね。いつでも引き返せるんだから。」
「ま、その時は手を借りるよ。」
「あのーヴィートさん?依頼人は私なんですけど……。」
「あ、悪いイドリス勝手に決めちゃって。今からでも合流した方がいいかい?」
「いえ、ヴィートさんの力量がどこまで通用するのか見てみたいですし構いませんよ。でもあまりに私が忘れられてる気がして……。」
「わ、悪かったよ。そんなに拗ねないでくれ。」
冒険者たちの間を抜けて15階入り口の扉を開けた。下階のゴーレム達と同じく中央に黒光りする金属の塊がどっしりと待ち構えている。洗練された立ち姿で足回りがスマートになっている。その分胴体が太くなり容易には断てそうにない。感覚器なのか動力部なのかはわからないが、赤い瞳が頭部に3つついている。
「どんな攻撃してくるのか楽しみだね。危なくなったらイドリスだけで階段に戻ってくれ。流石にかばえないかもしれないから。」
「……わかりました。ある程度戦いますが、無理そうなら離脱します。」
宵闇を抜き戦闘態勢に入る。アダマンゴーレムは今までのゴーレムとは一線を画す早さで腰を上げるとこちらに近づいてきた。
(まずは小手調べっ!)
宵闇に思い切り強化をかけて斬り抜く。ロックゴーレム、アイアンゴーレムはこれだけで倒せたが結果は……?
甲高い、キィンという音を立てて宵闇が宙を舞う。アダマンゴーレムは傷こそついたものの、ダメージは大したことないようだ。硬いゴーレムの身体と宵闇の刀身が衝突した結果、ヴィートの握力で抑えきれなかったのだ。
「堅ってぇ!!」
お返しとばかりに図太い両腕を振り回すゴーレム。速いだけなら回避は簡単だが腕が大きく、狙いも正確だ。両手を添えて、そっと力の向きを変えながら避ける。攻防を何度も繰り返し、跳ねまわりながら飛んで行った宵闇を拾う。いくら王都一の名工が作ろうと、魔力を通さない宵闇は普通の水晶よりも少し強い程度しか強度が無い。傷がついていない事を確認し、ほっとしながら鞘に戻した。
「これで心置きなく戦える。今までよくもやってくれたな?」
全身に強化魔法をかけ、ゴーレムに飛び掛かる。
「ずいぶん硬いらしいが打撃はどうだい?」
ゴーレムに肩車するように乗ったヴィートは〈オーバーブースト〉で頭を殴りつけた。嫌がるように両腕を振り回すゴーレムをよそに拳を振りぬく。次第に頭部の形が変わっていき……十数発目でとうとうゴーレムは動かなくなった。
「ヴィートさん!やりましたね!」
「意外と何とかなるもんだね。ぉわわっ!!」
ヴィートが渾身のドヤ顔を決めた所でアダマンゴーレムは光になり、上に乗っていたヴィートは地面に落下。強かに身体を打ち付けた。
「……痛ってぇ……。」
アダマンゴーレムのドロップ品はアダマンタイトの板だった。流石に強敵だけはあって、なかなかの価値がありそうだ。
「それで、どうしますヴィートさん。」
「どうって……どう?」
「先ほどの冒険者たちですよ。多分今呼べば彼らも先に進めますよ。」
「うーん……それで先を越されても悔しいしねえ。それにこの先もボスがいるんでしょ?アダマンゴーレムを倒せないんだったら先に進んでもしょうがないんじゃない?」
「まあ、確かにそうですね。こっそり進んじゃいましょう。私たちが次の階に進めばアダマンゴーレムが再出現するはずですから。」
そっと次の階への扉を開き、2人で上へと向かった。16階からは新たな敵、メタルスライムが現れた。体が液体金属でできており、核が見えない。やむなくヴィートがスライムの動きを牽制し、イドリスが〈ファイアボール〉で倒した。いままでヴィートが1人で戦闘を行っていたため、連携が出来たイドリスはどこか嬉しそうだった。
17階は変化なし。18階からミミックが現れた。普通の冒険者なら宝箱に飛びついてパクリといかれるのだろうが〈自領域拡張〉を使っていたヴィートには騙される余地は残っていない。速攻で始末した。
19階では黒いスケルトンが現れた。名前は……暫定的にブラックスケルトンと呼ぶ。アンデットの不死性と人間並みの素早さ、ある程度の戦闘技能を持ち、集団で襲ってくるが、宵闇の闇の気の影響で、普通の人間が集団で襲ってくる程度の危機だった。無論、敵ではない。
未知のボスが待つ20階へと到達する。
「イドリス、ここから先は何が出るかわからない。準備はいいかい?」
「は、はい。」
「いざという時は一度ここまで戻ってくれ。俺が時間を稼ぐ。」
「いえ、そんなことはさせませんよ。」
「いや、人に見られるとマズイ必殺技があるんだ。だから、大丈夫。」
「……わかりました。」
(明らかに納得してない顔してる……ま、いいか。)
20階にいたのは銀に光る巨人、おそらくはゴーレムだろう。顔こそ赤い眼しかついていないものの体は人間のものだ。そこに継ぎ目などはなく技術の凄まじさを感じさせる。
「なかなかやりそうな面構えだ。……いや面は無いのか。」
抜刀し構える。アダマンゴーレムで学習したのか、いきなり胴を斬る事はせず、関節を狙った。
常人には知覚できない、俊足の踏み込み。だが目の前のゴーレムはそれに対応してみせた。人差し指と親指で宵闇の刀身をつまんでいる!もう片方の手で人差し指を立てて左右に振った。
「こいつ本当にゴーレムかよ……。」
そのあまりにも人間じみた動作に、不安が湧く。額に冷や汗が滲んだ。宵闇を挟んで力比べの状態だが、いくら力を込めても刀身はびくともしない。
「イドリス!こいつ明らかに今までの奴より強い。本当にやばくなったら撤退を!」
「了解です!屈んで!」
精霊魔法を準備していたイドリスが〈ファイアボール〉を放つ。精霊は気が乗っているのか6つもの炎弾を発射した。ヴィートのすぐ脇や上を炎弾が通ってゴーレムに直撃した。炎にひるんだゴーレムが宵闇から指を放す。
「流石に折れるかと思った……。」
一度距離を取り仕切りなおす。筋力、大きさは完全にゴーレムの方が秀でている。素早さに関してはヴィートの方が速いものの、精密さと予測の正確さでイーブンとなっている。何か、戦況を動かせる要素が必要だった。
『ヴィート。その宵闇の力を活かしきれていないのではないか?』
『どういう意味だ?』
『ゴーレムも所詮は魔法生物。闇の気で魔力を吸収してしまえば良い。』
『でも刃が通らないぞ。』
『斬るのではない。宵闇に魔力をもっと込めるのだ。』
『ま、無策で行ってもしょうがないし、やってはみるけど。』
言われた通り、魔力を込める。片手剣から両手剣、両手剣から大剣と魔力の刃が大きくなっていく。
『こ、これまだ大丈夫?』
『まだだ。まだいける。』
5m、6m、7m……魔力の刃が肥大化し、ヴィートの魔力をずんずん吸い取る。
『よし、こんなものだ。』
最終的な刃渡りはゴーレムの3倍ほどになった。当のゴーレムは……魔力の刃を見てビビってしまったのか腰を抜かしている。ゴーレムとは思えないほど感情表現が豊かである。
「えぇ……コレ……えぇ……?」
先ほどまでフロアに充満していた真面目な空気が霧散する。このまま斬っていいものだろうか?
「どうしようか?」
「倒していいんじゃないですか?結局再出現するんでしょうし。」
「結構ドライなんだな。」
その発言が聞こえたのか……というか音を感知する感覚器があるのかどうかわからないがゴーレムは体を小さくし土下座をしていた。よくみるとかすかに体が震えている……。
「倒し辛いなぁ。すまん。いや、ほんとに。」
そのまま魔力の刃でゴーレムを断った。ゴーレムの身体は傷一つついていないが一切動かなくなる。繊細な魔力回路によって動いているゴーレムにとって魔力を吸収する闇の気は大敵だ。土下座の体勢のまま光になって消えた。ドロップ品は錬金金属のインゴット。一階の“後継者の門”と同種の金属だ。
昼食をとってから水を飲む程度の小休憩で歩みを続けていたためこのフロアで夕食と睡眠をとる事にした。相変わらず質素な保存食の食事だ。堅く焼いたカチカチのパン、干し肉を水に戻して作ったスープ。それから少し贅沢して干し果実と蜂蜜。
『なぁ、ローランド。』
『ならん。ならんぞ。』
正直な所、ヴィートとしては質素な食事に飽き飽きしておりイドリスには〈異次元収納〉を話していいのではないかと思っている。しかし、ローランドが釘を刺してその都度説得されるのだ。
『いや、この食事はちょっと……。』
『我慢しないか。〈異次元収納〉は国が動いてもおかしくない代物だ。この情報の為にイドリスが拷問に掛けられたらどうする?そうでなくとも、何らかの理由で〈異次元収納〉がおおやけになった場合、真っ先にイドリスを疑う事になるのだぞ。』
『それは……嫌かな。』
『世の中には隠した方が良い事もあるのだ。』
ここはボスフロアであるため魔物が出現することはない。しかし、万が一ではあるが、アダマンゴーレムを突破した冒険者が下層からやってきた時の為に交代で睡眠をとる事にした。イドリスは塔攻略が現実味を帯びてきたせいで興奮しており、しばらくは寝られないからと言って後の番をかってでていた。
翌朝、火を焚くのも面倒なので塔根元で買った果実と堅パンでの朝食となった。
「イドリスはさ、一番上まで行ったらどうする?」
「どうとは?」
「賢者の石だとかいろんなものがあるんだろ?どう使うのさ。」
「ふむ……まずは勉強ですね。」
「勉強?」
「はい。現代の錬金術ではまだ賢者の石を錬成するまでに至ってはいません。ですから残された資料を勉強し、自分の力で賢者の石を錬成したいのです。私たち錬金術師は、叡智を積み重ねて先へと進まないといけません。しかしシモンの技術があまりに高すぎたために、積み重ねるべきそれらは失伝してしまいました。その技術を復活させることは、錬金術師としての責務なのです。」
「はぁー!真面目だ!」
「ははは。それほどでも。」
「でも、フラヴィオの爺さんより腕が良くなるとなんか気まずくない?」
「いえ、師匠はそういう人ではありませんよ。むしろ嬉々として弟子に教えを乞うような人です。」
目標は今日中の塔の攻略だ。1階1階が結構天井が高い為、20階層でもかなりの高さになっているはずだ。扉を開け、21階に向かう。今までの階層とほとんど変わらずずんずん進んでいく。
23階にはタワーポット……いや、トーテムポットだろうか?アーマーポットが縦に3つ繋がった形状の魔物が現れた。連結した壺が回転することで隙なく攻撃が可能だ。とはいえ所詮はアーマーポット。達磨落としのように下から叩き割る。
25階、ボス階層だ。前回会得した新技術は〈マジックブレイド〉と名付けられた。〈マジックブレイド〉があるおかげでアンデットと魔法生物は怖くない。緊迫感なく、気軽にドアを開けた。
中にはごてごてとした機械の塊がいる。背中の排気塔からフシュー、と何らかの蒸気が噴き出て、ゆっくりとその身体を起こした。
その姿は蜘蛛に似ている。足は6脚で今までのゴーレムとは違い機械仕掛けらしい。ぎりぎりと歯車が動いている。
「へえーこれはかっこいいな。男の子って感じだ。」
「ですねぇ。」
「なんか機械っぽいけど。〈マジックブレイド〉効くのかな?」
宵闇を抜き放ち〈マジックブレイド〉を用意する。戦闘態勢に入ったのを察したのか蜘蛛が弾かれたように動き出した。とてつもなく動きが速い!足先が球体になっており壁や天井を滑るように高速移動している。
「これじゃ狙いが定まらんな……。」
「虫が逃げ回って倒せない時は罠を仕掛ければいいのです。」
「なるほど?何か案が?」
「ま、見ててください。“大いなる炎よ、燃え盛る火炎よ。立ち塞がり、敵を止めよ〈ファイアウォール〉”」
イドリスが精霊呪文……精霊へのお願いを行うと5枚の炎の壁が現れて蜘蛛の進行方向を塞いだ。機動力に長けた蜘蛛はその隙間を縫うようにするりと抜けた。
「うまく避けたようだが……ここからは俺のフィールドだぜ。」
〈ファイアウォール〉が現れてすぐ、終着点で準備をしていたヴィートは蜘蛛と真正面に相対した。
「おぁああああ!!!」
〈マジックブレイド〉で最も得意とする唐竹割りを放つ。魔力でできた刃がまっすぐ蜘蛛の身体を通って行った。身体は機械仕掛けだが制御を魔力で行っていたようで。すぐに動かなくなる。しばらくするといつものように光に変わった。ドロップしたのはまたしてもインゴット。外壁と同種の金属であるらしくかなり丈夫そうだった。
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