エピローグ
第78話変わらない日常
今まで待ち望んでいたギードの子供がカシアだったと村人全員が知り、三日三晩宴が続いた。
その一カ月後――。
守るべき繭が消え、この地へ住み続ける必要性はなくなった。
しかしギードたち三老人は「今さら住む場所を変えるのは面倒だ」ということで、このまま住み続けることになった。
彼らの弟子である村人たちも「師匠が残るなら」と言って、村を去ろうとする者は誰もいなかった。
そしてカシアは親子水入らずで暮らす……ということにはならず、今まで通りアイーダの家に居候していた。
「ねえ、カシア。ギードさんと一緒に住まなくていいの?」
朝食のパンを口にした直後、開口一番にアイーダが尋ねてきた。
一瞬、カシアはパンを食らいついたまま動きをとめたが、すぐに口の中の物を呑み込んで肩をすくめる。
「今さら親だって言われても、まったく実感が湧かないんだ。一緒に暮らし始めたら、一時間ぐらいで家出しそうな気がする」
どうしてもギードの顔を見てしまうと頭に血が昇ってしまい、いつ隙をついて見返してやろうと考えてしまう。むしろ親だと分かった後のほうが見返したい気持ちが強くなって、自分でも意地になっているという自覚があった。
けれど、これ以外にギードとやり取りする方法が分からなかった。
アイーダはジッとカシアを見てから、小さく微笑んだ。
「そういう頑固で不器用なところは、ギードさんと同じね」
ギードと同じ――そう言われて不本意ではあったが、見えない物で繋がっている気がして、なんだかこそばゆい。
恥ずかしさを誤魔化すようにカシアはパンを早食いして、「訓練にいってくる」と言い残して家から飛び出していった。
日課であるランクスたちとの訓練に臨む前に、いつも真っ先に向かう先は、森の入り口にあるギードの家だった。
「ジジィ、勝負しやがれ!」
裏庭で薪割りをしていたギードへ、カシアは剣を振り上げながら飛びかかる。が、
「邪魔だ。あっちへいってろ」
とギードが斧の柄でカシアのみぞおちを突くと、そのまま丘のほうへとぶっ飛ばしてしまった。
血の繋がった親子だと分かったものの、やっていることは以前と変わらずの二人だった。
「あ、姐さん、大丈夫か!」
飛ばされたカシアに気づいたシャンドが、空へ浮かんで後を追う。
魔界でソルに吹っ飛ばされたものの、ザコでも魔王。シャンドは気絶しただけで済んでいた。部下の魔物たちもソルに手痛くやられていたが、とどめを刺さなかったらしい。なので命に別状はなく、今も村の入り口の森で生活している。
エミリオもリーンハルトも苦戦して瀕死の状態だったが、魔界の入り口にいるということで、二人のピンチを知った村人たちが駆けつけ、どうにかベルゼを追い払ったらしい。
この件で他の魔王たちが警戒したらしく、しばらく地上に彼らが現れる数はぐっと減少した。が、今は元のように出没している。
カシアとギードが親子だと分かったこと以外、村の日常はなにも変わることはなかった。
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