第60話掴んだ手がかり
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シャンドたちを魔界に向かわせてからの一ヶ月間、カシアは懲りずにギードへ挑み続けて毎度ぶっ飛ばされ、ランクスに怒られながらしごかれて……そんな毎日を送っていた。
そして、ちょうど一ヶ月経った日のこと。カシアが森で剣の稽古をしていた昼過ぎに、シャンドたちが姿を見せた。誰もが一ヶ月前よりも痩せており、目の隈もひどい。
カシアはシャンドたちに駆け寄り、誇らしげな笑みを浮かべた。
「よく戻ってきたな、まずはゆっくり休め。話はその後で聞かせてくれ」
労いの言葉にシャンドたちは力なく笑う。
と、急に全身からも力が抜け、その場へ崩れ落ち、ぐったりと地面に横たわった。
「お、おい! 大丈夫か?」
カシアがシャンドに駆け寄ると……静かな寝息が聞こえてきた。
死んだのではなさそうだと、カシアはホッと胸をなで下ろし、地面の乾いた所へ座って彼らの目覚めを待った。
夕方になってようやくシャンドたちが目覚めたので、さっそくカシアは彼らと円陣を組んで話を切り出す。
「戻って来たってことは、なにか情報をつかんだんだな?」
まだ頬はやつれていたが、生気を取り戻したシャンドはカシアに笑い返した。
「ああ、姐さん。私も部下も不眠不休で調べてきた。……今のところはソルという魔王が、エナージュの杖を持っているという情報をつかんだ。ただ、魔王ベルゼがソルに戦いを仕掛けている最中で、厳重に保管されているそうだ」
心待ちにしていた報告に、カシアは瞳を輝かせた。
「そいつは都合がいい。ヤツらが戦いに夢中になっていれば隙が生まれるだろうから、それを利用して杖を奪ってやる。ところで、ソルとベルゼってどんなヤツらなんだ?」
魔物たちが顔を見合わせ、「お前言えよ」「いや、お前が」というやり取りをしてから、ワーウルフが一歩前に出た。
「ソルはオレと同じワーウルフらしいんっすけど、ドラゴン並に体が大きくて、力任せの乱暴者だっていう話っす。ベルゼのほうは嫌味ったらしくてずる賢い、体は人間っぽいんっすけど、こっちの世界でヤギっていう動物と似たような顔をしてるっす」
「そいつらの強さは?」
カシアの問いに魔物たちが言葉を詰まらせる。彼らが言いにくそうにモジモジしていると、ワーライオンが短いため息をついてたてがみを掻いた。
「どちらも魔界では中堅に位置する魔王です。非常に言いにくいのですが、我が主のシャンド様より力を持っています。従える魔物の数も段違いです」
不名誉な話にシャンドは顔を逸らし、悔しげに歯を食いしばる。声にならない声で「私に力があれば」というつぶやきがカシアの耳に届く。
カシアはシャンドに近づき肩をつかむと、魔物たちを見渡した。
「杖を奪うことができれば、ギードや村の連中だけじゃなく、その魔王たちを見返すこともできる。……お前ら、成り上がりたかったらアタシに力を貸せ」
まだエナージュの杖を取り戻す方法はひとつも考えていないが、自信のない態度を取ったところで下の者はついてきてくれない。ハッタリでも胸を張り、カシアは不敵に笑ってみせる。
一瞬魔物たちは静まり返り――拳を振り上げ「やってやるぜ!」「おう!」とやる気を見せてきた。
シャンドも頭を上げると、嬉々とした表情で「みなの者、我らの力を見せるぞ」と部下に言い聞かせ、カシアに向き直る。
「さあ姐さん、遠慮なく我々に指示を出してくれ」
この中に足を引っ張る臆病者はいない。カシアは満足げにうなずいた。
「まずは現場に行かないとな。シャンド、アタシを魔界に連れて行ってくれ。あとの作戦は現地で考えよう」
「それは構わぬが……姐さん、大丈夫か? 人間が魔界へいくと力が抜けて、まともに戦えぬぞ?」
そういえばルカからそんな話も聞いていたな、とカシアの心がわずかに怯む。しかし、ここで躊躇しても始まらないので、カシアは「構わない」と言い切った。
「まだ疲れは残ってるだろう。しっかり休んで、三日後の朝に魔界へ殴り込みに行くぞ!」
声に出して言った以上、後には引けない。
意気込む魔物たちを眺めながら、カシアは唇を硬く結び、急に汗ばんだ手を握り込んだ。
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