第58話ザコ魔王の仁義
すぐに魔界へ向かったフリをして、シャンドと魔物たちは村から少し離れた森の中で円陣を組んでいた。
「シャンド様、本当にやるんっすか?」
怪訝そうな顔でワーウルフが口を開くと、他の魔物たちも同じような顔をしてシャンドを見つめてくる。
部下の視線を受けとめながら、シャンドは腕を組んでうなった。
「姐さんの言うことだ、聞かねばならぬだろう。これも我々が力をつけ、魔界の猛者たちと渡り合うため――」
「どう考えても俺たち、姐さんに利用されてるだけの気がします。単なる便利な下僕としてコキ使われるだけなら、ここにいても無意味です。……シャンド様、このまま魔界に戻ってしまいませんか?」
ワーライオンがおずおずと言い出すと、魔物たちから「そうだよな」という声がいくつも聞こえてくる。
反論できずシャンドはその場で考え込んだ。
(……確かに私もそんな気はしていた。姐さんは我々を強くするつもりはないだろう。人間が魔物を強くするなど、天敵を強めて己の首を絞めるようなものだからな。きっと自分たちが魔界から帰ってこなくても、便利な下僕がいなくなったと残念がるだけだろう。いや、そもそも人が魔物のことなど信じる訳がない。もしかすると、我々と離れたい一心で言い出したことかもしれぬ)
シャンドの心にカシアへの疑念が湧く。ただ、舎弟になると言った自分たちを殺さなかった上に、村人から庇ってくれ、親分の役目を果たそうと面倒を見てくれているのは確かだ。それを思うと胸が痛くなった。
しばらく熟考してから、シャンドは村へ踵を返した。
「皆は魔界へ戻るがいい。私は姐さんにここを去ることを伝えてくる」
血相を変えたワーウルフが、シャンドの前に立ち塞がる。
「そんなことしたら、姐さんに殺されるっすよ!」
「由緒正しき血統の私が、義に反するような真似はできぬ。宿願を果たせぬことは無念の極みだが、卑怯者の烙印を押されて生き延びるぐらいならば、私は潔く死を選ぼう」
腹をくくったシャンドを引きとめることはできないと悟ったのか、ワーウルフは耳を伏せてシュンとなる。
ワーウルフを迂回してシャンドが村へ向かおうとすると、「待って下さい」とワーライオンが駆け寄ってきた。
「俺もお供いたします。シャンド様一人だけで死なせはしません」
いい部下を持ったと密かに感動するシャンドの元へ、他の魔物たちが我も我もと寄ってくる。
「お前たち……分かった。ともに姐さんの元へ行こうではないか」
シャンドはマントをなびかせながら村への道を戻る。その後ろを魔物たちがぞろぞろとついて歩いた。
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