第24話慣れない扱い


「君、大丈夫か!」


 聞いたことのない低い男の声。一瞬カシアは身構えるが、やけに真面目そうで心配の色が濃い声に少しだけ安堵する。


 上体を起こしてみれば、流れるような灰色の髪を首の後ろで縛った、鋭い目つきの青年が目の前にいた。驚いているのか、琥珀色の瞳が丸くなっている。

 やや面長の顔にある、高さのある大きな鼻がまず目に入る。それとは対照的な小さい口が固く結ばれていた。


 青銅色の胸当てや膝当てなどを身につけており、背中には赤い柄の槍を背負っている。服越しにも鍛えられた体躯だと分かり、彼も村人の一人なのだろうとカシアは察する。


 青年はカシアが起き上がったのを見て、わずかに表情を緩めた。


「大きなケガはなさそうでよかった。起き上がれるか?」


「問題ない。足をひねっただけだから」


 弱みを見せてたまるかとカシアが強がっていると、


「そうか、分かった」


 おもむろに青年はシルフィーの剣を拾って己の腰のベルトに差し込み、軽々とカシアを抱き上げた。

 この扱いは予想すらしなかった。カシアは全力で首を横に振る。


「やめろよ! これぐらい自分で歩ける――」


「女性が傷ついているのに、そんな真似はできない」


 今まで言われたことのない台詞に、カシアは一気に顔へ熱を集める。妙な緊張で体も硬直してしまう。


(な、なんだよコイツ。あの村人どもと毛色が違うぞ。こんな扱いしてくれるなよ)


 まともに青年の顔を見られずカシアがうつむいていると、彼は「怖がらなくてもいい」と苦笑混じりにつぶやいた。


「私はストラント村のリーンハルトという者だ。君の持っている剣も指輪も、村にあった物のはず。だから君は村に新しく入った人間と思ったのだが……」


「ま、まあ、一応」


 少し息をとめてから、リーンハルトはため息をついた。


「たまたま君が村から森へ飛ばされたところを見かけたが、まさか村の誰かにやられたのか?」


 ここぞとばかりに悪態をつきたくなったが、負け惜しみのような気がしてカシアは言葉を呑む。どうにか「別に……」と喉から搾り出して答える。

 リーンハルトは訝しげな顔をしたが、それ以上は聞き出そうとはしなかった。


 しばらく二人の間に沈黙が流れる。規則正しいリーンハルトの足音と、木々が揺れる音、小鳥や虫の音がカシアの耳によく聞こえた。

 沈黙を破ったのはリーンハルトからだった。


「君の名前は?」


「……カシア」


「カシア、誰でも最初から強い訳ではない、足掻き続けた結果に強さがついてくるんだ。その気持ちを失わなければ、君はもっと強くなれる」


 なにを言われているのか頭に入ってきて、カシアは顔中を熱くする。

 そう言ってもらえるのは素直に嬉しい。けれど恥ずかしさが勝って、「……そうですか」と素っ気なく答えることしかできなかった。

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