第6話あり得ない光景
間もなく木々の合間から目的の村が見えてきた。
丸太で組まれた家々が疎らにたたずんでいる。民家以外にあるのは、畑と、村の隣に臨む原っぱが広がる丘と、丘のふもとにある小さな池と、その周辺でくつろぐ馬や牛ぐらい。ここからパッと見で店らしき看板や建物の姿はなく、絵に描いたような辺境の村だった。
一行は木々に身を隠し、村をうかがう。
入り口の畑をクワで耕す白髪の大柄な男。池で釣り糸を垂らしている、小柄で干からびたカエルのような老婆。馬たちの毛にブラシをかける金髪の少年。見当たる村人はそれぐらいだ。
なんとも緊張しようのないのどかな様子に、仲間の誰かが小声で「楽勝だな」とつぶやく声が聞こえた。
首領が仲間たちへ目配せすると、まず先陣を切って五人が飛び出す。出遅れてたまるかと、カシアも矢のごとく俊敏に後へ続く。
各々の手に握られた抜き身の短剣が、日差しを浴びて輝いた。
畑の大男が顔を上げてこちらを見る。剛毛の髪はすべて白く、不機嫌に口を曲げたその顔にはいくつものシワが刻まれており、彼が老人であることは間違いなかった。
しかし顔とは裏腹に老人とは思えない長身で、服の下からでも分かる筋肉隆々とした体。特に肩の筋肉が盛り上がっており、胸板も分厚く、首周りも丸太のようだ。
老人のシワだらけの顔から覗く藍色の瞳と目が合い、カシアの全身から冷や汗が吹き出した。
(な、なんだこのジジィ。素手でクマでも狩ってんじゃないのか?)
ただ見られているだけで、その威圧に呑まれそうになる。
他の仲間たちも身を強張らせたが、すぐに気を取り直し、ニヤニヤしながら白刃をちらつかせた。
「なあジーサン、オレたち腹減ってんだ。家にある食料持ってきてくれねぇか? あと金目の物もな」
しかし、彼の顔に怯えどころか驚きの色さえなかった。
老人は土を耕していたクワを、カシアたちに向かって横一閃に振る。
次の瞬間。
ゴウッという突風が吹き、前の五人が後ろへ吹き飛んだ。
(な、なんだ今のは……)
風で頭のフードは外れたが、カシアは顔を隠すことも忘れて老人を見つめる。彼の表情はどこか億劫そうだが、こちらへ向ける視線は重圧感の塊だった。
(コイツ、ただ者じゃない! まともに相手をしたらバカを見る)
どうすればいいか分からず、カシアは後方の首領を見る。すると彼は隣にいた仲間たちへ「おい!」と叫んで注意を向けさせると、顎で緑の丘を指す。狙いをすぐに察し、数人が駆け出していく。
目的は老婆と少年。か弱い彼らを人質にとってしまえば、十分に老人を牽制できる。そう確信してカシアはにやりと笑った。
と、急に丘から「助けてくれーっ!」という仲間たちの悲鳴が聞こえてきた。
(今度はなにが起き――)
即座に丘を見ると、カシアが思い描いていた図は見事に裏切られた。
老婆へ向かった者たちは縄を締められたように体を硬直させ、その場に転がっている。
まさかと思い、カシアが少年の方へ視線を送ると――仲間が宙に浮き、少年の頭上をグルグル回ったかと思えば、ゴミを投げ捨てるようにポーンと投げ飛ばされていた。
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