レベル272

「まあ、それはいい。それよりも……」


 そんだけ鉱石Mのカードがあるって事は、もう別にウィルマがここに留まっている必要はないって事だろ。


「あら、また何か悪い企みでも?」

「オレをラピスみたいに言うな。別に悪い事じゃない」


 そう、ないはずだ!


 詳しく聞く所によると、ラピスの指導を受けた者が、この鉱石Mのカードを使って船の基盤を作っている。

 それが完成したあと、大勢の大工達による細かな調整が行われているそうな。

 なので、ウィルマもレリンちゃん達もやる事は特にないらしい。ならば、だ。


 2隻目を作らないかと。


 もうここは造船所として割り切り、別の船を作ろうと。

 どのみち、ここに居てもいつかはバレる。

 一か所に留まり続けるのはリスクマネジメント上よろしくない。


 メタル鉱石だって大量にあるなら、少しは分けて貰えるはず。


 現在の空母からウィルマを切り離し、オレの鉱石Mのカードで新たな空母を作るんだ!

 いや、空母である必要はないか。

 もっと速度のある、クルーザーとかいいかもしれない。


 ウィルマの本体が巨大な筏な分、形は限られるが、昔(前世)見たどっかのサイトにあった平面タイプのクルーザーをベースにして、生活空間を広めにとれば、快適な海の旅が約束されるはず。


 それに乗って世界中の海を駆け回るんだ。

 そう、オレは、海賊王になるんだ!


「この世界では海洋に人が進出できていません。なので、お宝があるとしても、よっぽど陸に近い場所しかありえませんよ」

「夢のない事を言うなよぉ」


 と、いう事で、さっそく関係各所に連絡。


 すると色々、手伝って貰える事になった。

 最初はこっそりやろうと思ったんだが、さすがにメタル鉱石を黙ってパクるのは良くない。今はえらい高騰しているし。

 なので、造船所の責任者に話しを通してみると、随分、乗り気になってきた。


「船旅を楽しむ為の船ですか……?」


 最初はオレが何を言っているか分からなかったようだが、それがどんなに素敵なプランか説明すると、とたん表情が変わってくる。


 なにせ今までは、生きる為、に船を作ってきた。

 頑丈さ、便利さ、動きやすさ、など、生活に利用する為だけに形作られている。

 楽しむ為の船、なんて言ってもピンとこない。


 だけど、船ってそれだけじゃないはずだ。


 今までは、海は恐怖の象徴だったかもしれない。

 だが、これからは安全にそこへ進出できる。少なくとも地上と同じぐらいには。

 だとすれば、地上の旅が楽しく感じるのと同じように、海上の旅も楽しめるのではないか。


「そうか、そうなのか……もう海は地上と同じように、いや、山や谷がない分、それ以上に! 切り開ける大地なのだ! 世界は、こんなにも広がっていたんだ!」


 ちょっと怖いぐらい興奮されているご様子。

 水平線に向かって大きく手を広げている。

 そうして、ぜひとも、そのクルーザーの製造を手伝わしてくれないかと。


 まずはオレが、ウィルマの本体を包み込むようにベースとなる形を作り出す。


 すると、船を作っていた人達が勢ぞろいして来て、細かいパーツを次々と付け足していってくれる。

 というか、みんな出てきていいの?

 向こうの船の製造が止まっているけど大丈夫? たしか、需要に全然、追い付いてないんじゃない?


 そんな、プロの方達が手伝ってくれたおかげで、随分立派な設備が出来上がった。


 2階建ての多数の客室。キッチンや遊技場のような場所まで。

 豪華なソファーや、天蓋付きのベッドも設置。どこの王族が乗るんだよって感じ。

 ウィルマが動かさなくても移動できるように、魔道具製のエンジンまで付けてもらえた。


 さらに船底には、透明な壁の遊覧室があり、海の中をじっくりと眺められる。


 そこから見える景色は、幻想的で、迫力のある世界を体験できる。

 問題は、ちょっと迫力がありすぎるって事だな。

 シーサーペントやらギザギザ刃の巨大魚やらが、猛烈な勢いで突っ込んでくる。


 うむ、異世界の海、怖すぎだろ。


 そんな、設備だけなら豪華客船も顔負けなクルーザーが出来上がったのだが、いざ出発となって懸念事項が一つ発生した。

 水と食料である。

 水も食料も現地調達できない訳ではないのだが、同じ食べ物ばかりでは飽きもくる。


 魚ばかりでは栄養も偏るし、魔法で水を作り出すのも手間だ。


 貯蔵庫も冷蔵庫も、いいものを積んでくれている。

 せっかくなんで、いくつか地上から持って行こうと。

 船旅も初めてだから、迷った時用にそこそこの量を確保したい。


 なのでちょっと、この国の王様に相談してみた。食料、売ってもらえませんかって。


 なにせ、ここらは海洋諸国。あるものは海産物ばかり。内地産の食料なんてほとんど売っていない。

 だが、王様なら持っているだろ、という事だ。

 そしたらなんか、無料で譲ってくれる事に。


 手紙では高圧的な事ばかり書いていたのに、随分、友好的な態度だな。アレかな? やっぱ文面になると人が変わるタイプなのだろうか。


「おおぉ……これはなんとも、言葉がでませんな……」

「素晴らしい! このような船があるなどとは! これは、かの造船設備でも作れるのでしょうか!?」

「実際にその場所で作っているから、頼めば作ってくれると思うよ」


 お返しに、クルーザーに乗せて一泊二日の船旅に。

 大層、好評である。

 旅行会社作りゃ、もう、これだけで食っていけるかもしれない。


「しかし、ウィルマ様が旅立たれるとは……この辺りはどうなるのでしょうか」

「ここは私の縄張りです。何であろうとも侵す事はならないでしょう」

「おお、それを聞いて安心いたしました!」


 海神様と一緒に旅行ができるという事で、ウィルマの周りには人だかりが出来ている。


「やっぱ人気だな~、こっちとは偉い違いだぜ」

「まあまあハーちゃん、お兄ちゃんは変装しているから」

「お偉いサンはシッテルけどな、ケッケッケ」

「マスターには私達だけが居ればいいんですよ!」


 こらお前ら、オレをディスるんじゃない。


「しかしいいのかよロゥリの事、きっと探し回っているぜ」

「大丈夫さ、あいつはいつも自由に生きている」

「オメエに対スル、執念深さはスッゴイけどナァ」


 ……おい、不吉な事を言うなよ。嫌な予感がしてくるじゃないか。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふむ、それでは、あのような船はおいそれとは作らないと」

「ああ、あれは王族が乗るための特別な船だ。分かっているだろ、あんたらも」

「ラピス殿が言ってた件か……確かに、アレは権威付けにもなる素晴らしい物だ」


「そうだな、もっと小さい、れじゃー? 向けの船なら……先に市場を作っておくものいいかもしれねえしな」

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