レベル217

「それで、使者の方はどうなされますか?」

「どうせ取り次ぐだけだろ、誰かに任せられないのか?」

「レンカイアに向かわせましょうか、そろそろ、外交的な事も経験させておいたほうがいいですし」


 そうだな、アイツなら大丈夫か。


「ではそのように」

「ああ、頼む」


 とまあ、こんなことがあったのだが。


「えっ、レンカイアが使者をブン殴って追い返した?」


 なにやら、とんでもない事態に。


「まだまだですねえ」

「まったくであるな」


 ラピスとダンディの前で小さくなって正座しているレンカイア。

 というかおめえ、なんでそんな事したの?

 反抗期なの?


「申し訳ありません……あまりにも勝手な言い草で、つい、カッとなってしまい……」

「何を言われたの?」

「なんて言いますか……育ててやった恩があるのだから、最大限の便宜を図るべきだとかなんとか……」


 ん? んん?


「バカですねえ、そういうときは他人だと突き通せばいいのですよ」

「別に便宜を図ってやっても良いのだぞ、ただ、便宜を図ったとして、いい結果になるとは限らぬがな」

「ちょっと待てお前等、いったい、誰が来たの?」


「僕の……元父親です」


 ああ、そりゃキレるわ。

 うん、仕方ないね。

 というかラピス、相手が相手なのに、なんでレンカイアを向かわすんだよ。


「いずれどこかでブチ当たる壁です。ならば早い方がよかろうと思いました」

「うむ、一発殴ってやったのは良かったぞ。そこだけは褒めてやる」

「お前等もスパルタな」


 まあ、たぶんもう一度来るだろうから、その時はオレが対応するか。


「お待ちください! 今一度チャンスを、次こそはうまくやってみせます!」

「良いではないか、レンきゅんの成長を促すには持ってこいの相手だと思うであるぞ」


 成功すれば自信に繋がる、失敗しても相手がアレなら気に病むこともない。などと小声で言っている。

 まあ骸骨の言い分も一理あるか。

 臭い物に蓋をするだけでは、いつまで経ってもそこから先へ進めない。


「分かった、ならばこの件はレンカイアに一任する」

「ハイ! お任せください!」


 その夜の事だった。


「どこに行くのですがお坊ちゃま?」

「ん~、ああ、ちょっと散歩かな」

「カシュアとアポロを連れてですか?」


 フル装備のオレの姿を見て、ため息をつくラピス。

 例の件はレンカイアに任せるのじゃなかったのですか? と、問いかけてくる。

 いや、別にそんなつもりはないんだよ?


 ただ夜風に当たりに行くだけで、フル装備なのは、ほらまた、襲撃とかあったら困るじゃない?


 今夜は雲ひとつない。

 月も綺麗だし辺りはよく見える。

 襲撃するには絶好の夜だしな。


「……で、どこまで行かれますかね?」

「そうだな、今日はいい襲撃日和だから、どっか襲撃できそうな所へ案内してくれないか」

「まったく、お節介焼きなんですから」


 呆れた様子で、そう呟きならがオレを先導するラピス。


『……それがクイーズのいいところ』

『いいじゃないかお節介! 別に悪い事じゃないよね。……最後まで責任もつなら』


 トゲのある言い方だなカシュア。

 なんだかアポロまで頷いている気がする。

 そうこうしているうちに、レンカイアの親父さんが泊まっているという宿屋に辿り付く。


「随分良さそうな所に泊まっているじゃないか」

「あっ、そうだお坊ちゃま、このホテルのオーナー、ご禁制の奴隷を扱ってるそうですよ」

「なるほど、それは良い話を聞いたな」


 とりあえず受付まで行って呼び出してもらおうと思ったのだが、フロントのお姉さんはそんな人は居ないとおっしゃる。

 おかしいな、確かにミュージックプレイヤーには、ここに入って行く姿が映っていたのだが。

 そこでラピスがオレに耳打ちしてくる。


「該当の御仁なら、3階の11号室に居ますよ」


 じゃあちょっとそこで待たせてもらおうか、と言うと、屈強なボディーガードが現れてオレ達を取り囲む。


「おいラピス、あまり乱暴な事はしてやるなよ」

「分かっていますよ、彼等には何の恨みもありませんからね」


 しかしそれも一瞬の事、気がつけば全員がラピスにのされている。

 3階まで上がった所で、通路の向こうから魔法が飛んでくる。

 しかし、アポロが素早く魔法を放ちそれを相殺する。


 次々と放たれる魔法の中、悠然と進んで行くオレとラピス。


 使者の護衛らしき人達が剣を抜いて斬りかかってくるが、今のオレの相手ではない。

 まったく、話を聞きに来ただけなのに物騒なことだ。

 とりあえず護衛の得物を聖剣ホーリークラウンでぶった切って行く。


 そしてその通路の先では一人の男性が震えて縮こまっていた。


「もっ、申し訳ありません! 思わず息子が出てきた事により、高圧的な態度をしてしまいました! どうかお許しを!」

「今、息子って言ったな。あんたはレンカイアの事を自分の息子だと思っているのか?」

「へ? そ、それはもう、アレだけ似ているのです、今はもう疑っておりませんが……」


「だったらいい」


 そう言ってオレは踵を返す。


「よろしいので?」

「聞きたい事は聞けたからな」


 目的も達成された。

 あれだけビビッてりゃレンカイアを下手に見ることもないだろう。

 あとはうまく交渉が進み、出来ればわだかまりも解消してもらいたいものだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「それで交渉の方はどうであった?」

「……それが、こないだとは打って変わったような姿で、ほぼこちらの希望通りに進みました」

「ハッハッハ。主に感謝するのだな」


「それは、どういう事でしょうか?」

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