レベル198

 随分嬉しそうだなカシュア。なんだったらお前が戦うか?


『ボクは居ない事になっているからね! がんばって、キミ!』


 オレは、そのカシュアのセリフに舌打ちをしながら剣を構える。

 目の前の山神は、いつの間にか六角棒のような鉄の支柱を手に持っている。

 そして、それをオレに向かって突き出してきた。


 棒術か……やっかいだな。確かにあの手じゃ、剣を握って戦うのには不向きだろうが……


 オレはその様々な角度から繰り出される攻撃を未来予見のスキルを使って掻い潜る。

 突けば槍 払えば薙刀 持たば太刀。

 そういわれる棒術は、まさに変幻自在。


 距離を取れば突きが来る。

 だからと言って点で避ければ、そのまま薙ぎ払い。

 近寄れば太刀の様に切り払いが来る。


 下手に受ければテコの原理でもう片方が飛んでくる。


 素早く、小回りが効き、攻防一体のその棒術は…………すこぶる大剣と相性が悪い。

 鉱石Mを刀にするか?

 とはいえ、そうすれば未来予見のスキルが使えなくなる。


『リミブレ使うかい?』

「いや、こんな敵地で身動きが出来なくなるのはまずい。まあ、未来予見がある限り、なんとかなるだろう」


 そう思った時だった、突如オレの周りに木の葉が舞い上がる。

 それはオレの視界を埋め尽くしていく。

 まずい!


 かじろうて背後から突き出された鉄柱を鉱石Mで受け止める。


 未来予見はあくまで視力に頼ったスキルだ。

 目の前の景色が早送りして見える。

 しかし、今早送りしても、見えるものは木の葉だけ。


 敵の居場所が分からなければ意味が無い!


 真上から攻撃が来る!

 くそっ、そういやアイツ、羽もってやがったな!

 鉱石Mの変形が間に合わず、パワードスーツの鎧の部分で受け止める。


 いってぇええ!


 しかし、その衝撃はモロに体に響いてくる。

 これだから棒術は……切断属性ならまだしも、打撃属性にあたる棒術は受け止めるだけでもダメージになる。

 おいカユサル! やっぱ未来予見、あんま役に立たないじゃないか!


『キミ、スキルに頼り過ぎてやしないかい?』


 ふと、そう頭の中にカシュアの声が響く。

 スキルに頼り過ぎ?

 そう言われれば……


 カユサルも言ってたな、スキルを持つ者はそのスキルこそが弱点にもなると。

 未来予見に頼り過ぎて、いざソレが使えなくなったときに右往左往している。


『君は未来予見なんてなくても十分強いのだから、もっと自信をもつといいよ!』


「いやはや驚いたな、ワシの攻撃をこうまでしのぐとは、ワシら以外でこのような武器を使う者は見た事ないはずなんだがな」


 ふと、何処からともなく声が聞こえる。

 風に乗って前からも、後ろからも聞こえるかのよう。

 しかしオレには、その声の位置がなんとなく想像できた。


 その声にオレは答える。


「オレはその武術を『知っている』からな」

「ほう……益々興味が沸いてきたわ、ならばここからは少々本気を出させてもらおう」


 その瞬間、複数の場所から一斉に鉄柱が突き出される。

 オレはそれを未来予見を使わずに掻い潜る。

 そうだ、未来予見なんてなくてもオレは十分戦える!


 それに……神経を研ぎ澄ませれば聞こえてくる、音達の居場所。


 音の世界で感じた感覚が、今尚、オレの世界に残っている。

 音を手繰り寄せれば、木の葉の動きが、奴の居場所が、突き刺される攻撃が、その全てがオレには分かる。

 どんな存在にだって固有の音を持っている。


 人の耳では聞こえないそんな音も、なぜか今のオレには感じられる。


 三ヶ月もの間、音の世界に居た事は何一つ無駄じゃなかったのかもしれない。

 オレは聖剣ホーリークラウンを地面に突き刺し、鉱石Mを刀に変える。

 ここからはもう防御は要らない。


 オレは木の葉の舞散る中に飛び込んで行く!


 奴の反応がいくつも存在する。

 どうやら分身の術みたいな何かをつかっているのだろう。

 オレはその一つへ駆け寄る。


 目に見えない場所から鉄柱が突き出されてくる、ソレを音だけを頼りに避け、カウンターをぶち込む!


 斬った! まずは一つ!

 木の葉の舞散る中を縦横無尽に駆け巡る。

 音に合わせステップを踏む。


 どこから何が飛んでくるか、全ては把握している。


『まるで踊っているようだね……いったいどこに目がついているんだろう?』


 踊りか……そうだな、踊ってくれないか山神様、このオレとハードラックな音楽を。


「グッ、くそっ、なんじゃ! あたらんっ! どころか、まるで小僧の動きに操られている様じゃ!?」

「剣術の腕も高ランクと聞いていたが……あの山神を圧倒する程とは。ハハッ、とんでもないものが我等の主になりそうだな」


 オラオラどうしたよぉ? さっきまでのキレが無くなっているぜ!

 見せてくれんだろぉ? あんたの価値をよ!

 散々人様を操って、迷惑かけまくったんだ!


 その報いは受けてもらうゼ!


 やがて周囲を覆っていた木の葉は全て地面に落ちてしまった。

 吹き荒れていた風も止まった。

 残ったのは、満身創痍のズタボロになったグリフォンもどきだけ。


「これで分かっただろう、あんたの力なんて借りなくても人様は立派にやっていけるんだよ」


 分かったなら、さっさとお家へ帰りな!

 モンスターにはモンスターなりの、人間には人間の住処がある。

 交流するのはいいかもしれないが、それ以上は、互いに不幸を呼ぶだけだぜ。


「ウム! 素晴らしい! このワシがまったく歯がたたぬとは。お主ならば我等が一族が仕えるに相応しかろう」


 ……一体、何をそこまでこだわっているんだ?

 お前達だって、人の世界になんてちょっかい出さないほうが幸せだろう。


「ワシらはこのような見た目であるが、人に近しいものだと思っておる。人であれば、力有るものに惹かれるのは当然のことであろう」


 今でこそ、主導権は我等にあるが、そもそもはこの国の王に心酔してここに留まる事になったと言う。

 その王家は、古代王国のアンデッド達に滅ぼされる事になり、それ以降は世界を見て回っても主と仰ごうと思うものは現れなかった。

 しかし、お主ならば新たな主人として力を捧げる事を惜しまない。などと言ってくる。


 というか、力至上主義はモンスターの方じゃね?

 人間は力よりも金に群がる気がする。

 まあ、そんな力も金も超越した、忠誠心ってのが偶にあったりするけどな。


「ならばワシも、そなたに忠誠心を捧げようではないか」


 信じらんねえな。

 えっ、ならばカードにすればいい?

 カードにして絶対の忠誠心を捧げろと命令すればいい?


 だからさっきから何度も言っているだろ! もう腹黒はうんざりなんだって!


「だったら俺を配下にしてくれ! 俺はそっちの狸のように腹黒じゃねえから!」


 ふと見ると、もう一匹、グリフォンドールが増えている。

 それはあの、砦で捕まっていた、グリフォンドールの子供であった。

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