レベル192
「えっ、オレに戦争の仲介を頼みたい?」
ある日の事、オレの元に例の腹黒姫様であるフロワースが尋ねてきた。
しかも、護衛も、英雄の導き手のモブディすら連れず、たった一人でだ。
店の前を行ったり来たりして、何してんだコイツ? またなんか悪巧みでもしてるのかな。と思ってたら、思いつめた表情で店に入ってくる。
「どこへこの話を持っていこうとも、碌な未来は訪れない。もう、未来を知る事が出来ない、ここにしか頼る場所はありませんでした……」
などと言ってくる。
なにやら色々板ばさみになっているご様子。
ふうむ……どちらにしろ、例の件はなんとかせねばならないとは思っていたのだが。
ラピスの奴、オレが攫われた、きっと悪いのはアイツラだ! なんて言って、出来うる手段を全て用いて南の諸国を徹底的に洗ったらしい。
その中でひとつ怪しげな所があって、お坊ちゃまは彼の国に捕らわれています、すぐにでも戦争をしかけましょう。なんて言って、カユサルやエルメラダス姫様だけじゃなく、聖皇国の皇帝まで巻き込んで戦争を吹っかけようとしたようだ。
もちろんオレはその国に捕らわれている訳でも無く、ラピスも確信していた訳ではない。
もしそこにオレが居ないとしても、犯人は南の諸国の可能性が高い。
その国を足がかりとして、南の国、全土へ戦争を仕掛けあぶりだそうとしていたようだ。
普通ならまあ、聖皇国もラピスの甘言になんて乗る理由が無いんだが。
その国は、南の大国に挟まれた小さな王国で、国土はさほど広くは無いが、山岳と言う天然の砦に囲まれ、その中には肥沃な大地があるという。
その地を求めて幾度と無く争いが生まれかけたほどの場所。
しかし、その小国は外交という手段でもって今まで凌いできた。
そして、そんな所を敵国である聖皇国が支配したとしたら、嬉々として全方位から攻め込められる可能性大。
北の最大国家である聖皇国とて、そんなリスクが大きい博打は打てやしない。
だがラピス、そこへとんでもないモノを持ち出してくる。
聖皇国の皇帝を乗っ取った亡霊騒ぎ、宝物庫から伸びていたダンジョンの細工、は、全てその国の手引きによるものである証拠を。
そりゃもう皇帝陛下、激怒するのなんのって。
まあ、侵略行為ですしね。
しかもやり方がひどい。聖皇国のプライドと言うプライドをズタズタにしてしまっている。
と、なると、もう収まりがつかない。戦争が始まるのも必然な訳で。
「しかもその国、その昔、お坊ちゃまにもちょっかいを掛けていたのですよ」
オレの10歳の時のスキル解放、それにも係わっていたとか。
裏から手を回し、特例、を認めさせ、万が一『天啓』のスキルを持っていれば、目撃者を全て始末し、攫ってしまおうとしていたとか。
当時の神官が全て、その国の息の掛かっている者だったらしい。
聖皇国の中にも、その国の手の者が多数潜り込んで、数年がかりで事にあたっていたとか。
「だからと言って、世界戦争の引き金を引いていいわけじゃない」
あともうちょっと遅かったら、北と南で大戦争が起こっていたかもしれない。
エクサリーはある意味、この世界の救世主じゃないのだろうか?
というかお前、マジで勘弁してくれよ! シャレになんねえよ!
「ん、コホン。ちょっとやりすぎだった、今は反省してる」
ほんとかよ? うちの連中は皆、真顔で嘘をつくからな。
「私の国もまあ、同じような環境にある訳でして……同情しないこともありませんが……手を出した相手が悪かったですね」
「それは貴女にも言える事では?」
「ぐっ、その節は、本当に申し訳ないと思っているのです……」
しかし、その小国もよくやるな。その小国の名はアンダーハイト王国。
世界各地へスパイを潜り込ませ、時に攪乱し、時にデマの散布、時に暗殺まで行ったと言う。
ちなみに、カシュアを狙っていた、Sランカーのアサシンもその国も者だと発覚したようだ。
なんだか忍の国のようだな。
「言われてみれば近い気もしますね」
で、それを聞いて、エルメラダス姫様、カユサルが激怒、ピクサスレーンの全兵力を用いて攻め込むとか言い出して。
んで我等が骸骨、もちろんそれにのっかかる。
今ここに聖皇国、ピクサスレーン、ヘルクヘンセンの三国同盟が結ばれ、その地へ攻め込む事と相成った。
とはいえ、間には南の大国が犇めいている。
そうそうその国に攻め込む事は出来ないはずなのだが……
この世界にはスキルと言うチートがある。
オレ達のメンバーの中には時空魔法・極のスキル持ちが居たりする。
しかも千年以上の熟練度をもった人物が。
元古代王国のエフィール姫様、100人程度の部隊なら一度に運べるとか。
しかもそれを何度も。
さっそくその国の中に砦をこさえ、数万人の兵士を常駐させている。
墨俣一夜城ばりに突然出来た砦に、あちらさんは大慌て。
すぐにでも追い出そうと特攻を掛けたら、こっぴどくやられて舞い戻ったそうな。
「つい最近まで戦争状態だった、ピクサスレーンとヘルクヘンセンの兵は熟練度も高く、今までまともな戦闘をしたことのないその国、アンダーハイト王国の兵では相手にならなかったのでしょう」
特にピクサスレーンなど、付近の強力なモンスターとも戦っている。
まさしく一騎当千なごとき、アンダーハイト王国の兵士では、5人集っても1人に勝てるかどうかだとか。
そんなピクサスレーンに張り合っていたヘルクヘンセンの兵士も中々の技量で、数も多い。
さらに、聖皇国には豊富な魔法戦力が存在している。
そんな三国の軍隊に攻め入れられれば、アンダーハイト王国じゃなくても持ちこたえる事は不可能。
結果、何とかして欲しいとフロワースの居るエンテッカルに泣きついたそうな。
それにしても、つい最近まで戦争していたピクサスレーンとヘルクヘンセンの兵士が仲良く戦っているのか?
あれか? 昨日の敵は今日の友ってやつ? えっ、どっちも後ろで怖い人が睨んでいるから逆らえない? ……恐ろしいことですねぇ。
「で、あなた方はなぜ、その国に肩入れされるので?」
「まあ、色々と、バラされたら不味い情報を握られている訳で……」
「アレですか? 中立と言いながら、北の情報を南へ流していたり……そう、お坊ちゃまの情報なんかもね」
うっ、と言って後ずさるフロワース。
なにやら、ラピスの方を見て怯えた表情でビクビクしている。
そして、観念した表情でフロワースが答える。
例の闘技大会の時、アレはオレ達の技量を測る為に全体的なセッティングを行っていたとか。
そしてそこで得た情報を南の国へ流し、煽ってオレ達を襲わせようとした疑い有り。
そんな理由なんで、ここに来て以降、いつラピスに首を落とされないか恐怖していたらしい。
「だったら態々オレの元に来なければいいのに」
「実は、他も似たり寄ったりでして……」
「なるほど、どこへ行っても首を刎ねられる未来しか視えなかった訳ですね」
このまま放置、したとしても両方から恨まれるだけ。
中立国と言っておきながら南の国へ加担していたわけだ。
北の国々も許しゃしないだろう。
フロワースのスキル、未来操作では、どのように行動しようとも最悪の未来しか察知できない。ならば最後の希望にと、唯一、未来の行方が知れないオレの元へきたようだ。
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