レベル184

 そう、すっかり忘れていた。実家の事。やはり結婚報告ぐらいはしたほうがいいのだろうか?


 ある日のこと、


「待たせたなクイーズ! ギリギリになってしまったようだが、ようやく完成したぞ!」


 突然エルメラダス姫様が店にやってきてそう言う。

 なにが完成したのでしょうか?

 えっ、サンムーンの復興?


「新都市、サンフレア。それが新しい町の名前だ!」


 なにか爆発しそうな名前ですね。

 魔都サンムーンの大改修が終わり、ようやく人が住める状況になったらしい。

 そこで今回、方々の貴族を呼んで大々的な発表会を行い、移住者を募集するとか。


 そこまで言って姫様、エクサリーの方を向いて勝ち誇ったような顔をして続ける。


「そしてその都市の太守はクイーズ、お前に決定した! そしてその補佐を私が行う!」

「うえっ!?」


 えっ、なんで?

 確か新都市は聖皇国の陣地になるんだよね?

 ピクサスレーンの貴族であるオレの仕事じゃ……いや待てよ、オレには聖皇国での貴族位もある。


「そういう訳だ」

「どういう訳なの!?」

「あらお坊ちゃま、ご出世おめでとうございます」


 めでたくねえよ!

 えっ、結婚早々単身赴任?

 どこのブラック企業だよ!


「クイーズが政治に使えるコマはダンディのみ。そんなダンディはヘルクヘンセンから動けない。という事はだ」


 今回ばかりはオレが向こうに駐在する必要がある。

 しかも補佐と言えば、仕事中は常に傍に居る。

 家で居る時間よりも仕事中の方が遥かに長い。その間ずっとだ。


 フッ、このレース、私の勝ちだな。とエクサリーを見て勝ち誇る姫様。


「くっ、わ、私も付いて……」

「家族でも無い者が来られても困る。これは大事な仕事なのだからな!」

「か、家族だし……」


 ん? と姫様の頭に?マークが浮かぶ。


「私とクイーズは、こないだ結婚式を上げ……」

「待て待て待て! えっ、クイーズはまだ15歳だよな? まだ16までは一月近くあるよな?」


 ああ、聖皇国ではですね、16歳になる一月前に戸籍を入れれるようになっているんですよ。


「えええっ! ちょっ、ソレ、フライングだろぉ!?」


 えっ、でも、姫様のところにも話が言ったはず?


「どういう事だカイザー!」


 姫様が隣の虹色の髪をしたメイドさんに詰め寄っている。

 まあ、なんと言いましょうか、少しでも姫様の御身心を思って……

 お前、私がめんどくさい状態になるのを嫌って後回しにしただろう!


 などと言い合っている。


「しかし、クイーズのご両親は、私との結婚を了承してくれたぞ! 式も出られると、あっ」


 なんの式?

 えっ、オレとエルメラダス姫様の結婚式?

 聞いてないよ?


「古き奥ゆかしい婚姻の手段。両家の家長が取り決めをしたのなら、本人同士の気持ちは二の次となる」


 などとカイザーが説明をしてくれる。

 どうやらその発表会の後、オレとエルメラダス姫様との結婚式が予定されていたらしい。

 うん、全然奥ゆかしくないよね。


 危なかった……ホウオウ戦が無ければオレは姫様の術中に嵌っていたかもしれない。


 というか何!? うちのご両親の了承ってどういうこと?

 あっ、ヤベッ。

 オレ、エクサリーとの事、実家にまったく報告してないわ。


 そりゃ勝手に了承されても仕方ない? いや仕方なくはないが、一国の姫様との婚姻をあの御仁が断るわけが無い。


「いっ、いやっ、まだだ! 仮にそうだとして、太守ともなれば、家で居るよりも城で居る時間の方が長い! うむ、嫁よりも補佐の方が、より長い時間を共に過ごす事となる」


 そしていずれはオフィスラブ。最終的にはNTRまで……などと想像を膨らます姫様。


 オレはそんな、ちょっとアチラの世界に行っている姫様を置いといて、ダンディに電話を掛ける。

 おいちょっと骸骨、今そっちで鍛えてもらってるバルデスかエフィールさん、どっちでもいいから太守を任せれたりしないか?

 ふむ、ちょっと聞いて見る? 能力的には問題ない?


 よし、ぜひ頼みこんでくれないか。


「お任せくださいこのバルデス! 貴方様のご恩に報いるため、全力で仕事にあたらせてもらいましょうぞ!」

「私にも時空魔法のスキルがあります。これを活用すれば離れた飛び地といえども、不利に成る要素はありえません」


 すっとんできた二人がそう言ってくれる。

 ありがたいものだ。

 これで太守の方の問題は片付くとして、問題は実家の方だな……


 このままスルー、というわけには勿論いかないよなあ。


 という事でやってきました我が実家。

 実に6年ぶりと言う。

 外で会うことは何回かあったのだが、ここに戻ってくることは今まで無かったのである。


 うん、なんか帰りづらいしね。

 なんとなく、おやっさんの気持ちも分かる気がする。

 問題起こして出て行くと、いざ帰ろうとしてもなかなか足が向かないもの。


 それは時間が経てばたつほど重くなるわけで。


 しかも、今回のような明らかに怒られそうな場面。


「バカかお前は? 一国の王女の縁談を断って、そのような平民と婚姻関係を結ぶなど」


 まあそうですよね。オコですよね。激オコですよね?

 ある意味、事後報告で良かったかもしれない。

 事前に連絡してたら絶対反対されたよね。


「今からでも遅くない、その娘と手を切り、エルメラダス姫様の元へ向かうのだ」


 今ですらこんな事を言って来るぐらいだし。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る