レベル175

「フッフッフ、ここまでコケにされると思いもよりませんでしたよ」


 などという、どっかのフリーなTHE様が言ってたようなセリフを呟くメガネの御仁。

 お、おやっさん、このお方と過去に何かあったんでしょうか?

 ゆらぁっとコッチへ顔を向けてくる。うぉっ、なんかコワイんだが。


「君に選択肢をあげようじゃないですか」

「え、えと、どんなですかね?」


 懐から小さな小瓶を取り出す。


「これはうちで扱っている薬、なのですがね。薬も量を間違うと毒薬になる訳ですよ」


 ゴクリと唾を飲み込む。

 もしかしてオレにおやっさんを暗殺しろと?

 いやいやいや、そんな事できませんよ!


「なあに、別に死ぬわけじゃぁあ、ありませんよぉ」


 その言い方、凄く怖いんですが。


「少しの間、体が動かなくなるぐらぁい。そして動かなくなったこの人をぉ、私の元へ連れ来るぅ、だけでぇ……いいんですよ」


 最後はちょっと正気に戻ってくれたようだ。


 で、その後、おやっさんはどうなるのでしょうか?

 えっ、そこまで知る必要はない?

 ムリムリムリ! いかん、これはもうすぐにでも脱出するしか!


 あっ、ちなみにもう一つの選択肢は?


「ここに毒薬があります」


 さらに別の瓶を取り出す。

 あっ、先が読めてきた。


「数時間体を動かなくさせるものです、コレを飲ませて……」


 選択肢ないじゃん!

 毒の種類が違うだけだよね!?

 というかなんでそういう話になるのよ!


 事情を聞かせてください!


◇◆◇◆◇◆◇◆


「おう、クイーズ、帰ってきたのか。どうだった?」


 いや、それがッスね。

 ちょっと失礼します。


「ん、なんだお前、ちょっ、なんで縛るの!?」

「ちょっと会ってほしいお方がいるので」

「いや、だからってなぜ縛るの!?」


 向こうさんのご要望なので。

 さすがに薬はまずいという事で、せめて身動きが取れないようにするだけに変更してもらった。

 大丈夫おやっさん、命だけは保障しますので。


「命以外は?」

「おやっさん次第ですかねえ……」


 おやっさんも悪いんですよ、さすがに『婚約者』までほったらかしにするなんて。

 向こうは、例えおやっさんが死んだとしても、操を立て、決して誰ともつきあうことなく生きてきたというのに。


「えっ、なんの事……?」

「準備できましたよ」


 オレがそう言うと、部屋の中に例のメガネな御仁が入ってくる。

 実はこの御仁、おやっさんの婚約者だとか。

 一件、見た目は男性に見えるが、良く見ると(多少)胸が盛り上がっている。


 話を聞く事には、おやっさんと結婚の約束までしていたそうで、おやっさん亡き後は操を立て、今日まで独身で過ごしてきたと言う。

 さらに、おやっさんの仕事を引き継ぎ、いっとき傾きかけたフォートレース商会を立て直し、現在は会頭を勤めている。

 もっと早くに生存確認が出来ていれば、こうまでなることは無かったのに。と言う。


 うん、これはおやっさんの自業自得だよね。


「なぜ、生きてたというのに、今日まで連絡を寄越さなかったのですか?」


 その御仁、おやっさんの前に立つと、暗く濁った瞳で見下ろして来る。

 えっ、誰? って言うおやっさんの言葉に、ヒクヒクとコメカミが動いています。

 ちょっとおやっさん、それはないでしょう。火に油を注いでどうすんスか!


「私の事をお忘れですか? あなたの婚約者である私を!」

「婚約者?」


 ん、完全に忘れている?

 いや、さすがに婚約者は忘れないよね?

 んん?


「ユンです。あの日、あの時まで片時も傍を離れなかった、この私を!」

「えっ、ゆんちゃん? いやあ、見違えたねえ。って婚約者?」


 あれ? おやっさん婚約者だったことを知らない?


「結婚してくれるって言ってましたよね!」

「えっ、……いやいやいや、あれはまだゆんちゃん小さかったよね? 言葉のアヤと言うかなんというか」

「結婚してくれるって言いました!」


 えっ、10歳の頃? おやっさんは17歳?

 将来お兄ちゃんと結婚したい~。ああ、大きくなったらな。って感じ?

 ええっ!?


「……すんませんおやっさん、自分、勘違いしてました」

「え、うん、分かってくれたらいいのよ?」

「ちょっと何、縄を解いているんですか、この人はこのまま国に連れ帰って、今後は私の主夫として働いてもらいます!」


 主夫って……

 連れ帰ったら、おやっさんが商会を運営するようになるんじゃないの?

 えっ、商才のないおやっさんに店は任せられない? ごもっともで……


「何言ってるの? 俺はこの店を運営しなくちゃならないんだから帰らないよ」

「見栄を張るのはよしてください。あなたがこのような大きなお店を運営出来てる訳がないでしょう」


 うん、なにげにひどいなこの人。

 言いたい事は分かるけど。


「そこまでじゃユン、この店をこの男が運営しているというのは本当のことじゃ。いつも言っておるだろう、事前の下調べは必ず行えと」

「商会長……」

「お、おやじ……」


 いつの間にか扉の開いたその先に、一人の老人が立っているのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぶわっかもーーンッ!」

「「ヒィイ!」」


 突然、大音声で怒鳴ってくるそのご老人。

 オレとおやっさんは抱き会って震える。


「どうせお前の事じゃ、商隊を潰した後ろめたさで、今まで黙っておったのだろう」

「い、いや、そうじゃないんスよ? ほ、ほら、娘の事で」


「ぶわっかもーーンッ!」

「「ヒィイ!」」


 なんでおやっさんの関連者は、どれもこれも怖い人ばっかなの?


「娘がおるならなおさじゃ! なぜもっと早くに便りを寄越さん! 娘に何かあったらどうするつもりだったんじゃ!」


 ちょっとおやっさん離してくださいよ。

 オレもう関係ないよね?

 えっ、エクサリーの夫なら息子も同じ。離しゃしないって?


 ソレ今関係ないッスよね!?


「そなたがクイーズ候でございますか?」


 ギョロリと目玉をオレの方へ向けてくるそのご老人。

 ウォッ、すげえ迫力……思わず腰が引ける。

 はい、私がクイーズ・ファ・ゼラトースでございます。


「最年少ドラゴンスレイヤー、ピクサスレーン、ヘルクヘンセン、聖皇国の3つの貴族位を持つと言う」

「はい、その通りでございます」

「我が孫、エクサリーを見初めて頂いたのは大変光栄な事でありますが、申し訳ありませんがその婚姻の話、辞退させて頂きます」


 へっ?

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