レベル173

 ――ドタドタドタ、ギュム


「ぐえっ!」


 夜中に何かに圧し掛かられて目が覚めた。

 何やってんだお前等?


「あのクソドラゴンめ、よくもわらわをコケにしてくれたな! 目に物みせてくれるわっ!」

「ガウガウッ!」


 なにやら、ロゥリとローゼマリアが随分興奮した表情で部屋の外へ出て行く。

 暫くして幾つかの剣を抱えて戻ってきた。

 確かアレは古代王国で眠っていた伝説の名剣シリーズのような。


「おいソレ、呪われているって言ってなかったか?」

「フンッ、わらわに呪いは通用せぬわっ!」

「ガウガウ!」


 いやロゥリ、お前、剣を持ってる手の部分、なんか黒くなって来てるぞ。


「ガウッ!?」


 つーかおめえ、そんな物無くても自前のドラスレがあるだろ。

 えっ、ラピスが持って行った?

 そういや最近、ラピスの姿を見かけないな……アイツ、どこで何やっているか知ってるか?


「ガウガウ、オマエニハ、イウナッテイッテタ」


 ちょっとそれどういうことぉおお!?

 何やってんのアイツ!

 最大級に嫌な予感がするんだが……


「つ~かお前等、なんでオレの部屋の窓から出入りしているの?」


 態々踏んで行こうとするな!

 えっ、玄関が閉まってた? そりゃ夜中だしな。

 誰か開けてくれなかったのか?


「何しておる、さっさと行くぞ! えっ、手が呪われた? お主、ホワイトドラゴンじゃろ、竜の姿になればそんなもの消えるわっ!」


 ガヤガヤ言いながら、また窓から出て行く二人。

 アイツラ、いったい何と戦っているんだ?

 もう面倒事は勘弁してくださいよ?


◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうしたカユサル、随分剣呑な目つきをして」

「あ、師匠、探したんですよ。最近店に行っても何時もいなくて」


 ああ、最近ね。

 なんかね、あのおっさんにね。

 いつも、連れ出されているんだわ。


 そのおっさん、今は子供たちに剣術を教えている。

 あれからロゥリの奴が一度戻ってきて、暫く帰れないかも知れないので子供達を頼むって置いて行った。

 ちゃんと親御さんには了解を取っているのだろうか?


「あの子供達に剣の指導をしている彼は、いったい何者ですか?」

「ん、ん~、ペンテグラムっていうんだけど……」


 なんて説明したものか。


「師匠、最近、古代王国跡地へ向かいましたよね?」

「ん、ああ、そうだけど」


 初代剣聖ペンテグラム……と小さく呟くカユサル。

 えっ、あのおっさん、そんな凄い称号持っているの?

 生前もあんなに強かった訳?


「歴代最強……という評価をしている本もあります」

「ええっ、でもあのおっさん、スキルゼロだぜ?」


 剣聖ってほら、剣術とか豪腕とかのスキルを持っているほうが有利なんじゃね?


「技術、には上限があります」


 全ての技術には上限がある。

 剣術といえどもそれは例外ではない。

 達人ともなれば、ほとんどの技術を擁している。


 達人同士の戦いでは、先にミスをした方が負ける。と言われるほどだ。


 剣術のスキルがあれば、達人となるまでの近道が可能だろう。

 だがしかし、達人の頂点に立つことは敵わぬとも言われている。

 スキルによって近道した分、その過程をしっかりと踏みしめてきた者とは土台が違うからだ。


 事実、剣術スキルを持った剣聖は、存在しない。


「むしろ、戦闘とは一件関係なさそうなスキルが重宝されます。それこそカシュアの未来予見などその筆頭でしょう」


 敵の動きが読めるのですからね。と言う。

 だがおめえ、あれ、実はあんま役に立たないぞ。

 相手の動きが読めるっていえば聞こえがいいが、相手が動かない場合、まったく役に立たない。


 あくまで現状の未来予見な訳で、自分の行動によって変わる未来は予見出来ない。


「それは相手にスキルがバレているからでしょう」


 まあ確かに。

 バレてなければ、まったく動かないって事はないだろうしな。


「だからこそ人はスキルを隠すんですよ。スキルがなにかバレれば、逆にそれが欠点ともなる。過去の剣聖の中には鑑定系のスキル持ちがいるぐらいですから」


 なるほど、相手が未来予見のスキルだと分かっていれば、自分から決して動かなければいい。

 豪腕のスキルがあると知れていれば、その力を利用した技術を用いればいい。

 どれだけ技術を磨くか、も大事だが、結局はその技術をどう使うか、って事の方が大事な訳だ。


「最終的にはコツコツ努力した者こそが頂点に立てるのですよ」

「なるほどなあ」


 おめえ、いい事言うなあ。

 えっ、ちょっとあのおっさんとやりあって見る?

 やめとけ、きっと、いい事ないぞ。


「ふむ、音に関するスキルか」


 数合、剣を合わせた後にそう言うペンテグラム。

 カユサルの顔に冷や汗が滝のように流れている。

 だからやめとけって言ったのに。

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