レベル166 第十章完結

「え、エフィール姫様……ウガッ!?」


 戸惑いの声を上げたバルデスに雷撃が落ちる。

 さらに先ほどまで、オレ達を襲っていた剣までバルデスにつき刺さる。


「やはり無理じゃったか……ねえ様は雷撃の魔法は使えん、という事は、アレはねえ様を乗っ取ったリッチロードじゃ」


 さらに稲妻が鳴り響き、無数の雷撃がバルデスを焦がす。

 それはバルデスだけではなく、オレ達の方まで向かってくる。


「ロゥリ、オレの近くへ来るんだ!」


 鉱石Mを地面にセット、放射状に伸ばしそこから避雷針のようなものを生やす。

 雷撃はその避雷針によって地面へ逃がす。


「いでっ、いででっ!」


 しかし、地面を無数の電撃が走り、足元からビリビリと電気が昇ってくる。

 ロゥリの奴はローゼマリアの脇を抱え少し浮いて回避している。

 オレも一緒に担いでくれないか? えっ、両手は塞がっているから無理? そんな事言わずにさあ。


 カシュアの奴は盾と鎧でがっちりガード。

 今の所、ダメージを受けているのはバルデスとオレだけの模様。

 というかアイツ、消え掛かっているな?


 バルデスが、かわいそうなぐらいボロボロになって行く。


 しかしオレも人の事は言えない。

 足元からプスプスと煙が上がっている。

 つ~か、バルデスのときより状況が悪くなっているぞ?


 なんか飛び道具、飛び道具はござらんか!?


 おいこらロゥリ、なに笑ってんだてめえ!

 えっ、ダンスしているみたいで面白い?

 ええ~い、見せモンじゃねえ!


 ん、見せモン? 飛び道具?

 ふむ……いだっ、いだだ! 考えている暇は無い!


『出でよ! マンドラゴラギター!』


 ――ギュイィィーン!


 確か音で物体を壊すってのがヨーチーブで見た記憶がある。

 固有振動数? 成る物が全ての物質には存在していて、それと同じ振動を与え続けると共振とかいう現象が起こり、物質を破壊せしめるとか?

 そしてソレをギターのスキル、オート演奏で再現できないだろうか。


 頼むぜマンドラゴラギター! あのアンデットの固有振動数を掻き鳴らしてくれ!


 突如、大音響で音楽を掻き鳴らし始めたオレを皆が呆然として見つめる。

 上で浮いている姫様を乗っ取っているアンデットまで。

 よし、そのままジッとしてろよ! 聞かせてやるぜ、あんたのハートに、衝撃(物理)を与える音楽を!


 オレの音楽が進むに連れ、フラッ、フラッと揺れるアンデット。

 効いてる! 効いてるぞ!

 えっ、決して聞いてるではないって? 誰がうまいこと言えといった。


 さらにスピードを上げていくオレのギター!

 フラフラがブラブラになり、さらにガタガタとなっていく。

 振動が大きくなり小さくなり、それはまるで、音に合わせて踊っているかのようだ。


 そして終わりが訪れる。

 曲の締めに大きく、そして長い、最後の一節が投じられる。

 世界に静寂が戻った瞬間、ドサリという音と共に上空のアンデットが落ちてくる。


「今だカシュア!」

「了解だよっ!」


 その落ちたアンデットに向かってカシュアが聖剣を突き立てようとした時だった。


 それまでボロ雑巾のようになっていたバルデスが、どこにそんな力が残っていたかと思うぐらい素早い動きで、落ちてきた姫様アンデットに覆い被さる。

 カシュアはそのバルデスごと突き刺そうとしたが、バルデスにちょっと刺さった当たりで剣の勢いが止まる。

 刺さった辺りから激しい火花と光の泡のようなものが漏れる。


 どうやらバルデスが防御魔法で抵抗している模様。


「ぐ、ぐぉおおおお! このバルデス、何が、何が有ろうとも! エフィール様を守り通してみせるぅうう!」


 先ほどまでボロボロにやられていた相手だと言うのに……


「バルデス……それはもうねえ様ではない」

「そんな事は無い! エフィール様はここにおられる! ここにおられるのだぁあああ!」


 絶叫するバルデス。

 その時、ピクリと動く、バルデスの下のアンデット。

 そのアンデットは両腕でバルデスを抱きしめる。


「ありがとうバルデス、私を守ってくれて。……そういえば、蘇って始めてかもしれない、あなたにお礼を言うのは」

「え、エフィール姫様!?」

「ふふっ、本来なら目が覚めて、まっさきに言わなければならない事でしたのに。私はそれすらも出来ていなかった」


 ありがとうバルデス、私を蘇らせてくれて。

 ありがとうバルデス、私の為に戦ってくれて。

 ありがとうバルデス、私を……愛してくれて。


 そうエフィール姫が囁くたびに、聖剣が刺さっている箇所の火花が小さくなり、光の泡が多くなっていく。


「そしてありがとうバルデス、私を連れ戻してくれて、あなたのおかげで戻ってくる事が出来た」


 エフィール姫の瞳から一筋の涙が流れる。


「あなたと居られて幸せでした。だからバルデス、この幸せな感情が消える前に、私を連れ去ってくれませんか? あの空の彼方まで」

「ひめ……さま……!」


 バルデスもまた、大粒の涙を湛える。

 もう、抵抗していた火花は消えた。

 聖剣からは光の泡しか出ていない。


 しかし、カシュアの聖剣はそれ以上進まない。

 オレはそんなカシュアに近づき、その聖剣を握っている手に自分の手を重ねる。


「きみぃ……」


 そう言って振り向いたカシュアの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

 すまないな、お前ばかりに押しつけちまって。


「終わらせてやろう。オレも力をかす、イヤなら代わるぞ」


 ブンブンとカシュアが首を振る。


「コレはボクが……聖剣の担い手としてのボクの使命なんだ。誰しもが何かの役割を担う為に生まれてくる。ボクは王子の役割を担う為に生まれてきた」


 だけどそれを全うする事は出来なかった。

 だから今度こそ、聖剣の担い手としてその役割を全うしたい。

 そう言って聖剣に力を込める。


 おめえ……

 ああ、そうだな、その使命、全うしなくちゃな。

 だけどな、何も一人でやる必要は無い、王子だって、王様だって一人でなるもんじゃないだろ?


「きみぃ……!」

「二人でやろうカシュア、オレとお前の二人で背負うんだ」


 ブンブンと首を縦に振るカシュア。

 そしてオレとカシュアは、力を込めた聖剣を二人に突き刺すのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 光が世界に満ちていく、その中で唯一人、残されたローゼマリアが佇んでいる。


「ああ……体は死するとも心はとうに死んでいると思っておったのに……こうも涙が止まらぬとはなぁ」


 その光の中、両手を天に掲げて泣き笑いの表情を見せる。


「いよいよ次はわらわの番かのぉ。さて、抵抗した方がよいか、それとも身を任せたほうが良いか、どっちがよいと思うか?」


 そう言いながらゆっくりとオレ達の方へ歩いてくる。

 カシュアが前に出ようとする。

 オレはそれを手で遮る。


「今更だけどな、オレ達は別に古代王国の滅亡を望んだ訳ではない。どうしたらいいのか分からなければ、分かるまでゆっくりと考えればいい」

「千年考えても答えがでなんだ事が、今更答えがでるとも思えんがのぉ」

「千年掛けて考えたんだろ? だったらもう少しで答えがでるんじゃないか」


 千年経っても分からんことは二千年経っても分からん。とは思わない。

 何かを悟る時は一瞬のことだ。

 その一瞬の為に必要だった時間が、千年か数瞬かの違いである。とオレは思う。


「何年も悩んだ答えが、クソして寝ればふと思いつく事もある」


 ふとした事でか……そう呟いて辺りを見回すローゼマリア。

 ボロボロになった王城、誰も居ない王座。

 消えてしまったねえ様とバルデス。


「……一人は嫌じゃ、ここで一人生きていくのは絶対に嫌じゃ。だからわらわも、」

「じゃあ、一人じゃなければどうなんだ?」

「???」


 せっかく千年は生きたんだ。

 だったらあと数十年ぐらいロスタイムがあってもいいとは思わないか?


「カシュア、疲れている所悪いが、もうひと働きしてもらうぞ」


 オレは宙に浮かんでいる2枚のカードのうち一枚を手に取る。


「新スキルだ」


『蘇生』


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―――バンバン!


「納得がいきません、納得がいきませんぞっ!」


 なにやら一人の男性が机を両手で叩いている。


「クイーズ様ほどのお方が、たかが公爵どまりなど! これほどの力があるのなら軽く大陸の半分は持っていなければおかしいでしょう!」

「ちょっと何あれ、随分熱血漢が入ったわね」

「おねえ言葉になってますよダンディ。彼等は私達の仲間になった訳じゃなくて、ただの人間です」


 首脳会談を行うと聞いて、どうしても付いて来たいって言ったから連れて来ただけです。

 そうダンディとヒソヒソ話をするラピス。


「これは怠慢です! あなた方の怠慢ですぞっ!」

「そうは言われてもねえ……勝手にやるとクイーズちゃんが怒るのよぉ」

「その気にさすのも部下としての勤めでございましょう」


「これバルデス、貴方の意見を押し付けるのはおやめなさい。皆様もそれぐらい、とうに考えていると思いますよ」


 あれ嫌味かしら? 確かエフィールとか言ったわね。

 いやあ天然なんじゃないですかねえ。あの二人、古代王国を滅ぼした張本人ですから注意してくださいよ。

 だったら連れて来なければいいのに。


 などとヒソヒソやりとりをしているラピスとダンディ。


「まっ、そうですね、そろそろ一国ぐらい欲しいところですねえ」


 ラピスが気をとりなおしてそう答える。


「自由にやらしてくれるなら一国どころか、それこそ大陸の覇者にしてあげるわよ」

「聖皇国以外なら好きにしても構わんぞ」


 聖皇国はクォーツちゃんのものだからやらんぞ、と竜王ニースが答える。

 それを聞いて激昂する男。


 なにぃ、キサマはそのクォーツやらとクイーズ様とどっちが大事なのだ!

 そりゃ、クォーツちゃんに決まっておろう。

 それでもクイーズ様の部下かぁあ!


 などと場はカオスになりつつある。


 ―――パンパン!


 と手を叩くラピス。


「はい、静粛に~、静粛に~。静粛にしろってんだよコラ」


 ラピスが一人ずつステッキで殴っていく。


「なんで我輩まで」

「はいそれじゃ、今後の方針です。まずは国取り、その後大陸の覇者。これでおk?」


 えっ、って顔でラピスを見やるダンディ。


「聖皇国はやらんぞ」

「じゃあニースは敵ですね~」


 えっ、って顔でラピスを見やるニース。


「そんな事、主が許さんじゃろ?」

「大丈夫ですよ、黙ってやればバレやしませんって」

「……いや、ばれると思うんだが、というかお主、性格が悪うなってないか?」


 となると、エンペラーのスキルが使えないのは痛いですねえ。

 とはいえクリスタルカード使うと、お坊ちゃまにばれますし。

 そう言ってブツブツ呟くラピス。


「おい、これはやばいんじゃないのか?」

「元々何考えているか分からん奴じゃったが、さらに輪をかけてきておる気がする」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―――ブルブルブル!


 なんだ急に悪寒が?

 うぉっ、あぶねっ!


「どうした? 注意が散漫になっているぞ!」


 くっそこの戦闘狂がっ!


 オレはローゼマリアを蘇生させるつもりが、なぜかエフィール姫とバルデス、それと目の前に居るペンテグラムとかいう騎士を蘇生させてしまった。

 どうやら、アンデットモンスターでも『生きている』状態では蘇生は出来なかったご様子。

 なので、そこにいたアンデットモンスターとしては死んでいたエフィール姫とバルデス、そして根性で彷徨っていたペンテグラムの魂が蘇った。


 そしたらなんかこのおっさん、オレに稽古をつけてやるとか言い出して。

 そんなのはロゥリだけで十分だよ!


 ―――ブルブルブル!


 うぉ、またしても悪寒が。

 そういや今日は朝からラピスの姿を見ていないな。

 …………激しく嫌な予感がする。

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