レベル161

 バッとこちらを振り向く小さな女王様。


「まさかお主等の話、ほんとうの事じゃったのか?」


 実はそうなんですよ。


「おっ、お前等、なんてことしてくれたんじゃ! これじゃわらわのくっちゃね生活が台無しだろっ!」

「いえいえ、ローゼマリア様におかれては、今後も何もせずにくっちゃねしてもらうつもりですよ」

「ならば良し!」


 いいのかよ?


「マリア、お逃げなさい。そしてあなたは……還るべき場所へ行くのです」


 どこからともなく先ほどの美女の声が聞こえる。

 良く見ると、魔術師の手に鳥かごのようなものがあり、その中に人形サイズに小さくなった先ほどの美女が見える。


「ねえ様……」


 どの道、逃がすつもりはありませんがな、と魔術師風の男が手を上げる。

 すると背後の地面から茨のような真っ黒な何かが立ち昇る。


「さあローゼマリア様、こちらに来るのです。でないと戦いに巻き込まれてしまいますぞ」

「どうしたら良いかのう?」

「オレに聞かれましてもねえ」


 とりあえず向こうは逃がす気はない。

 となると、戦うしか道が無いわけで。


「ラピス、ドラスレを借りるぞ」

「お坊ちゃま、それは……」


 ラピスが何か言いそうになるのを遮り、オレはドラスレを前につきだす。


「やらないか、そこの騎士さんよ? これでオレは100パーセントの力を出せる。さっきよりは楽しめるぜ」


 そう挑発してみる。


 するとその挑発に乗ったのか、向こうも青白いオーラを纏った白銀の騎士が前に出てくる。

 あの120はオレがなんとかする。

 それ以外なら、お前の力でなんとかなるだろ?


 ラピスから借りたスカウターで見たところ、その他の奴も70前後ぐらい。

 とはいえ、パラメーターはそれほど大した事はない。

 スピードでならスーパースターのラピスが勝っているし、知能でもほぼ変わらない。


 この世界には上級職って概念がないから、下級職のまま高レベルとなっても、上級職であるラピスの敵ではないのではないか。

 ただし、あの120は除いてな。

 さすがに120は論外だ。


 数値上では勝ち目が無い。


「勝算はあるのですか?」

「無いのにオレが挑むと思うか?」


 ちょっと耳貸せ。


「ふむふむ、なるほど」

「お、おい、やめたほうがいいのじゃぞ? アレはとっても怖いんじゃぞ?」


 小さな女王様が心配そうな顔つきそう言ってくる。

 この子もお姉さんと一緒で優しい子だな。

 いったい古代王国は、何を考えてこんな子達をアンデットにしたんだ。


「心配しなくても大丈夫だ、ちゃんとお姉さんを助け出してやる」

「べっ、別に心配なんてしておらんぞっ!」


 ツンレデかよ。

 オレはフッと笑って騎士の前に立つ。

 騎士の構えか、目の前にいる騎士は剣を胸の前で立てる。


『パワードスーツ・オン!』


 オレの全身に刺青の様なものが奔る。

 そして両者見合った、その時だった!

 またしても、突如上空から一体の巨大なものが落ちてくる。


「ああっ、わらわの王宮が穴だらけなのじゃー!」


 その巨大なものは、一体のドラゴンゾンビをめがけて急降下!

 地響きと共に踏み潰す。

 すみませんねえ、うちのドラゴンは空気を読まなくて。


 そう、落ちて来たのは、ドラゴン(大)に変身しているロゥリだったのだ。


 ロゥリはそのまま二体目のドラゴンゾンビに襲いかかる。

 いつのまにか敵の後ろに回りこんだラピスが、ボーっと突っ立っている首の無い騎士をステッキで串刺しにしている。

 確かにオレとあんたは一騎打ちだ。だからと言って、他の奴等が戦わないとはかぎらねえ。


 のんびり見学しているほうが悪い。


「ちょっとおぬし等、卑怯すぎではないか?」

「卑怯じゃ悪いか?」

「まあ良い! 卑怯結構、コケコッコー! 勝てば官軍よ!」


 オレもここぞとばかりに目の前の騎士に向かって斬りかかる。

 奴は盾を構えてそれを受け止めようとする。

 フッ! ドラスレの切れ味を舐めてるな! その盾ごと真っ二つだ!


 と思ったのだが、


 ドラスレが盾に止められた。

 ウェッ!?

 もしかして、お宅もドラスレ並の装備なのでしょうか?


 まずいぞ、スカウターにパワードスーツ。鉱石Mにドラスレと、装備でゴリ押ししようと思ったのに。

 だが! そっちは片手剣、こっちは両手剣、攻撃力はこっちの方がまだまだ上だ!


 オレは力任せにドラスレを振り回す。

 盾を持っていなくとも防御力は低くない。

 鉱石Mは手に持つ必要が無い盾なのだ。体から生えてるからな。

 防御力はトントン、攻撃力は少し上。

 残りのレベル差は、パワードスーツに補ってもらうとしよう。


「おお……凄いのじゃ、あのナイトスペクターのペンテグラムと互角に戦っておる。千年前の聖剣の担い手ですら戦闘を避けたというのに」

「お坊ちゃまは、戦闘経験だけなら人類最高クラスですからね。装備さえ整えばそう簡単にはやられはしません」


 ラピスの奴は早々に残り三体の首なし騎士を片付け、今は魔術師へ睨みを利かしている。

 ロゥリの奴もドラゴンゾンビを片付け終わったようだ。

 今は人間(大)になってお姫様の傍にいる。手が空いてんなら手伝ってくれないかな。


「イッキウチダロ、ガンバレ」


 さいですか。

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