レベル110

「え、え~と、いいのかな?」


 サヤラがアポロの方をチラチラ見ながらそう言ってくる。


「サヤラはあまり店から離れられないだろ?」

「え、そ、そうなんだけどね」

「…………問題なぃ」


 そう言いながらもアポロはどこか不満げだ。


「お坊ちゃまと離れ離れになるのは心配ですね」

「こっちはボウリックさんも付いて来るし、いざとなったら竜王召喚も出来る」

「そうですね……」


 まあ、こっちゃ街の近くの草原がメインだ。

 そうそう問題が起こる事はないだろう。


「分かりました、それでは私達はついでに北の鉱山地域を探索と行きましょうか」


 お坊ちゃまが居ないのならちょうどいいですしね。と呟いている。

 とにかく、暫くはレベル上げをしないとな。じゃないとカードが増えない。今はストックゼロだ。

 さっそく翌日よりレベル上げを開始する事にした。


「あはは、なんだかピクニックみたいですね」

「まったくだな。若奥様とその子供達みたいに見える」

「いやだボウリックさん。おだてても何も出ませんよ」


 サヤラとボウリックさんが楽しそうに会話している。

 なるほど、サヤラが奥様でオレが旦那様か。

 じゃあちょっと奥様、もうちょっと子供達の面倒見てくれませんでしょうか?


 オレの腰にはハーモアが、頭にはサウが、背中にはロゥリが食いついている。

 後なぜか付いてきたヒメリアさんが、そんなオレ達を楽しそうにニコニコ見つめている。

 ええ~いお前ら! 重いんだよ! 離れろよ!

 ほらモンスター居たぞ? 行けよ? 行けってばよ!


 ロゥリが仕方なさそうにモンスターの所へ行き、尻尾でぶっ飛ばす。

 おおぅ、とハーモアとサウがパチパチと拍手をする。ロゥリは得意げにフンッと鼻で息をする。

 いや、逆逆! お前達二人が戦うの! ロゥリは援護!


「「え~」」

「え~言うな」


 ハーモアの奴は、最初はオドオドしていたのだが、やがて野生のスイッチが入ったのか、草原を縦横無尽にモンスターを追い掛け回す。

 サウはそんなハーモアの肩にくっついて、モンスターを倒しそうになった寸前に石を投げて手付けをしている。

 ふと目を離した隙に、こっちにまで石を投げてくる。怒っても空に舞い上がってウッシッシって笑っている。まったく、とんだ悪戯娘だ。


 ロゥリは飽きたのか、何時の間にか居なくなっていた。ほんと自由だなあいつ。


「そろそろお昼ごはんにしましょうか。ねっ、あなた。なんちゃって、キャッ!」


 そう言って両手で頬を挟んで軽くジャンプするサヤラ。

 随分楽しそうで何よりです。

 ボウリックさんとヒメリアさんも兄妹仲よく弁当を広げ始める。


 オレ達も弁当を広げて、さあ食べようかとした時だった。

 なにやら地平線の彼方から土煙がモウモウと立ち上がっている。

 嫌な予感がしてきた。


 良く見ると先頭にロゥリが。


「モンスターツレテキタ、コレデ、ケイケンチワンサカ」


 だろうと思ったよ! お前、モンスターのトレインはやめろってあれほど言ったろ!

 いかん! あいつが居なくなった時点ですぐ戻して置くんだった。

 それから日が落ちるまで、昼ごはんも食べれずに、ひたすらモンスターと戦闘を繰り広げるのであった。


「はぁはぁ、このクソドラゴン! いいかげんにしやがれ!」

「ガウガウ! コッチノホウガ、コウリツイイ!」


 効率の問題じゃないんだよ! ひとつ間違えたら死ぬだろ、おい!


「元気ですねあの二人……」

「あの激戦の後、よくやるわ」

「混じりたいけど、さすがに体力の限界……」


 なお、ハーとサウはグッタリして虫の息の模様。

 残り三人は、さらに激闘を繰り広げるオレ達を見て呆れている。

 そんなこんなが数日間続いた有る日、遠征組みが帰ってくる。


「どうやら北では、縄張り争いが激しいそうですね」


 今回ラピスは、比較的温厚な、知性有るモンスターに接触を図ってきたらしい。

 竜王ハイフレムの広大な元縄張りを巡って、モンスター同士の争いが活発化しているとの事。

 また、白銀の獅子王が居なくなった事により、それまで獅子王に押さえつけられていたモンスターのうっぷんが爆発して、どこの種族も好戦的になって手に負えないそうだ。


 その中でも問題なのは、そのハイフレムの縄張りがオレの物になっていると勘違いしている輩が居るという事だ。

 そんな輩が前回、温泉でオレを襲ってきた一派のようだ。


「なるほど、ハイフレムを倒したのはオレとなっている。という事は、そのハイフレムの土地はオレのものになっていると勘違いしている訳か」

「別に勘違いでもなんでもありませんよ? モンスターの世界では強いものが偉い、土地の奪い合いは倒して奪う」


 ハイフレイムの縄張りはモンスター達の中では一時的にオレの縄張りとなっていると。

 いらないよそんな縄張り!


「その誤解は解けそうなものなのか?」


 えっ、なんで? って顔をするラピス達。

 いや、また襲われるだろ?

 ん? もうその件は大丈夫? なんでだよ……嫌な予感がしてきた。


「誤解を誤解じゃ無くすればいいのです! その温厚なモンスターを中心として、私達の派閥を作る事にしました!」


 やっぱりお前の大丈夫は大丈夫じゃないんだな……

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