レベル43 竜の住処

「よく来たなドラゴンスレイヤー。護衛などいらぬと言ったのだがな」

「ドラスレは重いんで持って来てません」

「ハッハッハ! 冗談がうまいな貴様」


 洞窟の入ったばかりの広場で兵士達が大量に鎮座している。

 そこには、一際豪華な装備を身に纏った女性が一人。

 たぶんアレが護衛対象だろうと近づいた所、そんな事を言ってくる。


「やはり重いかその称号、此度の戦、益々楽しみになってきたな」

「何の事か知りませんが、あんなの持てる奴はどこにもいませんよ」

「ハッハッハ! 気に入ったぞ! 貴様は随分謙虚な奴だな!」


 なんだか、ちょっと話が噛み合ってない気もする。


「よし! 出立の準備をせよ!」

「まだ冒険者達が集まっていない様ですが?」

「必要ない! たかが岩竜ごときに冒険者の手を煩わすまでもないだろう」


 随分自信家なお姫様だ。

 岩竜ってそんなに強くないのかな?

 と、そこへ一人の兵士がオレに近づいてくる。


「やはり、師匠でしたか……」

「ん、もしかしてリーヴィか。お前も呼ばれたの?」

「志願致しました。たぶんこうなるだろうと思ったので……師匠、私の傍から離れないでください」


 お前……いい奴だな!

 頼むよ、オレそんなに強くないから。

 ほんとどうしようかと思っていた所なんだ。


「なんでオレが呼ばれたんだろうな……アレかな? やっぱ2年前手柄を横取りしたの恨まれてんのかな?」

「師匠が居なければかの竜は王都に向かい、多くの犠牲を出したでしょう。なのに師匠を恨む者など誰も居ませぬよ」

「だといいんだがなあ」


 ちょっとお姫様、そんなにドンドン先頭を歩かないでくださいよ。

 なんで指揮官が一番先頭に居るのよ?

 後方勤務だとばかり思っていたんですが……


 そこへモンスターの集団が現れる。


「仕方ない、やるか」


 オレは腰の剣を抜き身構える。

 しかし、


「貴様は何もせずとも良い、むしろ手を出すな。私は貴様の手を借りずかの称号を手に入れる!」


 それをお姫様が遮る。

 えっ、護衛しなくていいんスか?

 じゃあオレ何しに来たの? 帰っていいスか? えっ、ダメ? ですよね。


「護衛が必要な場面など訪れぬ! 見ておれ!」


『シャドウスキル・猛槍!』


 お姫様が手を前に突き出しそう叫ぶ。

 その瞬間、地面から無数の黒い楔が突き出したかと思うと、モンスター達を次々と串刺しにする。

 いくつかが掻い潜って来るが、兵士達と共に素早い動きで斬り捨てていく。


「我がスキル『影技・極』影を自由に操る事が出来るスキルだ。光の差さぬ洞窟ではまさに無敵であると言っても過言ではない!」


 なるほど、これならオレの出番はなさそうですね。

 となると、急に気持ちが軽くなってきた。

 ふうむ……そうだな、もっとお姫様に頑張ってもらう為に……


『出でよ! マンドラゴラ・ギター!』


 ――ギュイィィーン!


 突如、戦闘中にギターをかき鳴らすオレを、お姫様一同、不信な目付きでこっちを見てくる。

 オレはそんな奴らに、グッと親指を立ててニカッと笑ってやる。


「補助魔法です(大ウソ)」


 オレはお姫様達の戦闘に合わせて例のテーマを演奏する。

 そう誰もが聞いた事が有る、戦闘のテーマだ! えっ、聞いた事無い? あっ、日本人限定です!

 そうするとお姫様、キレッキレな動きでモンスター共を屠って行く。


「確かに、体が軽くなった気がするな」

「気持ちが逸りますな。まるで戦えって急かされている気分です」


 でしょうでしょう。

 これを聞くと戦意高揚になるんですよね~。

 イケイケどんどんな時はコイツを、慎重に戦わなければならない場合はコッチを。

 ボス戦のテーマとか最高の奴がいっぱいあるよね!


 ゲーム中、一回しか聞かないのに凄くいい音楽とか、超もったいないけどだからこそ盛り上がったよな。


「そのギターにはそんな効果が付与されているのですか……!?」


 リーヴィが驚いた表情で聞いてくる。


「いいや、ギター自体にはそんなスキルは存在しない。ついでに言えば正確には補助魔法ですらない」

「えっ!?」

「これは……音楽が持つ、そのままの力だ」


 音楽の……力? と聞き返してくる。


「そうだ。音楽には人を奮い立たせる力が有る」


 オレは戦闘に向いた激しいリズムを掻き立てる。


「音楽には人を慰める力がある」


 オレはゆっくりとしたバラードを力強く響き渡らす。


「音楽には人を笑顔にさせる力がある」


 オレは軽快なポップミュージックを奏でる。


「響くだろ? 心に、それを人は、音楽の魔法と呼ぶんだ」


 リーヴィは何か思いつめたような表情で前を向く。

 そして、そのまま前線に走っていく。

 ちょっと、何処行くの? オレの護衛は?


「姉貴、俺も戦う」


 なんか、お姫様が凄く驚いた顔をしている。


「……いいのか、今まで散々隠してきたのだろう? 実力を。私の目の前でたとえ手加減したとしても・」

「手加減はしない、全力で戦う!」

「…………何がお前をそうまで変えた?」


「音楽だ……俺は師匠の音楽を体に感じて戦いたい!」

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