レベル11 序章完結

「これでなんとか許して頂けませんでしょうか?」

「なんとかってお前……」


 机の上にはこんもりと大判小判が。

 例のドラゴンの討伐報酬である。

 どうかこれで、機嫌を治してもらえませんでしょうか?


 今までどんなに顔がこええって言っても怒った事がなかったのに。


 帰ったらエクサリーがオレの部屋で泣いてて。

 てっきりまた、怖い顔を誰かにバカにされたものだとばかり。

 慰めようとして、思わず顔が怖いコワイと連発してしまった次第。


 すっかり機嫌を損ねてしまい、目も合わせてくれない状態。


「いや、こいつのはたぶん、お前恋しさで泣いて居た所を見られて照れて・いだだだ」


 おやっさんがエクサリーに抓られている模様。


「それよりこれは何だよ? 首のチョーカーも取れているみたいだし」

「えっ、言ってなかったっけ、表の看板のドラゴン討伐に行くって」

「えっ、初耳よ?」


 あれ? 言ってなかったっけ?

 えっ、でもおやっさん、奴隷契約書とか持ち出して来て、準備万端だったじゃね?

 恩赦で奴隷開放には必須のアイテムだろ。


「そんなっ、そんな危険な事して来たの!?」


 と、エクサリーが突然立ち上がって、オレの体をペタペタと触り始めた。


「怪我は! 怪我はしてない! っ、こんなっ、肩と腕に包帯が……」


 いやそれはドラゴン関係な……い訳じゃないが、ちょっと違う。


「どうしてそんな危険な事したの!」


 あっ、これはガチ怒ってるっぽい。


「もしクイーズが死んだら……死んじゃったら……」


 と思ったら泣き出してしまった。

 これは顔が怖いとか言ってちゃかしている場合じゃない。

 というより、奴隷であるオレの為に泣いてくれるのか……やっぱりエクサリーは優しいな。


「ごめん、でもちゃんと勝算があったんだよ。ほら、これを見てくれ」


『モンスターカード!』


 オレの前に3枚のカードが浮かび上がる。

 一つは虹色、一つは白色、そして最後の一つは黄金色に輝いていた。

 その黄金のカードをオレは手にする。


「きれ、い……」


 エクサリーが呆けた顔でそれを見やる。


「これは、オレがゲットした新しいモンスター、ドラゴンスレイヤーだ!」

「えっ、ドラゴン……ドラゴンを手に入れたの!?」

「おお、こりゃかっけぇなあ」


 二人がオレのカードを覗き込む。


「これ、出すこと出来るのか?」

「ああ、ちょっとこっち来て」


 オレは二人を店の前まで誘導する。


「誰だよ、俺の店の前にでっかい岩置いたの?」

「いやあ、運んで来るのに苦労しましたわ」

「お前かよ!」


 まあまあ、これは新しい商売のネタでございます故。


 あのドラゴンの討伐後、オレはお城の王様にお呼ばれされてしまった。

 まあそりゃそうか、たった一人でドラゴンを倒してしまった訳だし。話題にならない理由がない。

 そこでまあ、このドラスレを買い取りたいって話が出て、じゃあ、これ持てたら差し上げまひょって事になって。


 スキルの性質上、差し上げるじゃなく貸し付けにはなるが。


 まあそんな訳で、腕自慢大会が始まったのである。

 我こそは、などといった怪力持ちが集まって、うんせこらせと地面に刺さったドラスレを抜こうとしたのだが、スキル持ちでも持ち上げる事が不可能であった。

 そんなときピコンと、これ商売になるんじゃね? とか思ってしまった。


 それに、万が一抜かれてもオレにもメリットがある。

 この剣でモンスターを倒してもらえたら、カードのレベルが上がる。

 カードのレベルが上がれば、オレにも何らかの恩恵が有るかもしれない。

 唯の肥やしにしとくにはもったいないしね。


『出でよ! ドラゴンスレイヤー!』


 オレはドラスレを岩の上で下向きに召喚、狙った通り岩に突き刺さるドラスレ。


「商品を買って頂いた方には、このドラスレを抜くチャンスを差し上げましょう!」

「ほほう……」


 とたん我が道具屋に殺到する通りの人達。


「いい商売だ、と言いたいところだが……一回試したら終わりじゃね?」

「まあ、店の看板代わりにでもなるでしょ」

「えっ、これそのままにしとくのか?」


 大丈夫、大丈夫。なにせ、ドラゴン持ち上げるぐらいの怪力じゃないと盗めないから。

 あと、盗まれても一瞬でカードにして手元に戻せるし。


「ねえ、それより貴族のちょっかいの方はどうなったの? ラピスが居ないようだけど」

「ああ、ラピスは今、冒険者ギルドで冒険者登録をしている」


 実はあの後、スキルを暴露させられた。オレのだけじゃなくラピスのも。


 あんの総大将、言ってた事を反故にして、手柄を独り占めしそうになったのだ。

 実はドラゴンを倒したのは自分の部下であり、オレは偶々そこに居合わせただけだとか言って。

 その上一度も戦ってもないからと、集めた死兵連中には一銭も出さんとか。もちろん恩赦もなし。


 横暴にもほどがあるっしょ。確かに一度も戦ってないにしろ、兵士として召喚して、脱走は死罪まで言ったんだ。時給ぐらいは払えよ。


 そこでオレがドラスレをドスン、今すぐカードを開放しドラゴンに戻してやろうかと。

 そしたら慌てる総大将。

 あんたらが倒したって言うんなら慌てる必要もないだろう。


 不信に思った王都からの使者が聞き取り調査を行ったところ、ドラゴンさん瀕死どころか、この谷でだいぶ回復して、近々燃える復讐心で王都に襲撃を掛けられる寸前だったとか。


 その兆候があったから、死兵を死に物狂いで集めて、特攻をかけようとしていたらしい。

 しかも、それを王都へ報告していないときた。

 完全な背任行為でございますね。


 つーかやばかっただろ! 瀕死じゃなかったのかよ! あの時、カードに吸収出来てなかったら死んでたんだぞ! オレが!

 まあドラゴンはヒットポイントがでかい。

 オレのモンスターカードが『割合』で吸収だったのが幸いしたようだ。分母がでかけりゃ分子もでかい。


 ラピスは割合で吸収する事を知っていたようで、だからあれほど勧めてきたようだった。


 で、最後にどうやってドラゴンを倒したかって話になって。

 仕方がないんで全部ぶちまけた。

 そしたらちょっくら王様に会ってくれって言われて、表彰状と報奨金をがっぽり頂けた次第だ。


 もちろん総大将は監獄行き。

 次のドラゴン退治で、恩赦目当てに死兵として頑張ってください。


 しかし、王城に行った事で問題が発生した。

 ラピスだ、ラピスが目立ちすぎた。

 ラピスのことを引き取りたいって貴族が殺到して来たのだ。


 幸福を呼ぶと言われる珍しい虹色の髪、すらりとした中にも、出るとこは出てるわがままボディ、絶世の美女と言って差し支えない美貌、ちょこんと伸びた長い耳と丸い尻尾がチャームポイント。


 そりゃモテるよなラピス。

 だが、誰にも渡さない。

 仕方がないので、牽制として例の怖いスキルを皆さんにお伝えした。

 ちょっとお手つきにしたら、数年で国が出来るほど子供ができますよ~って。


 そしたら王様が怖い顔をして、スキル調査の水晶を持って来させて、オレ共々調査をされてしまった。


 その結果、国から一つの魔道具を売って頂ける事になった。

 なんでもその魔道具、それを持っていると異性を寄せ付けなくできるそうな。

 触ろうとしたらバチンと弾かれるとか。そんな便利な魔道具があったんだ。


 それを持ったラピスさん、意気揚々と冒険者ギルドへ向かったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る