2020年1月(4) ティエンフェイ・ミーティング
次のティエンフェイの合奏練習。
「練習前にまずはメッセしたリクルートの話ね。この子の声を聴けっ!」
そう言って
スピーカーからはスマフォのテキトーな録音のせいでくぐもった音で『Around the World』の音楽が鳴り、そこにハスキーヴォイスの歌声が合わさってきた。
「道なき未知を辿っていく♪」そんな歌詞が歌われていた。
「へー。これが
自慢げに右人差指で鼻をさする中谷ちゃん。なんとも女子らしからぬ所作だけどもうテンションが高すぎて止められない。
「どうよ。プロデューサー。うちのスカウト能力すごい?」
「それは知らんけどさ」
ピノキオの鼻は切ってあげないとねって心の中でつぶやくふーちゃん。その言葉にしかめっ面な中谷ちゃん。
「えー」
しゃーない。褒めてやるか。
「声はええんちゃう。素直な声はうちらに合わない。古城さんだったっけ。ハスキーヴォイスは面白いと思うよ」
中谷ちゃんとふーちゃんの会話に今次危機の根源になった
「これなら私が復帰してダブル・ヴォーカルとかいろいろ出来そう」
中谷ちゃんはそんな摩耶の願いが耳に入ると眼と眼がくっつきそうなしかめっ面になった。
「あー。続けてくれたらね。音楽経験ないそうだから勧誘からして難関。簡単じゃないと思う」
「この子、制服の規定変えさせた子だったっけ?」
「そうです。あの子です」
古城ミフユの名前は学内では入学早々から知られていた。入学式前に「男子向け、女子向けという規定が必要なのか」と問い合わせたのだ。そして大学側は時代だと思っていたのかあっさりと「そういう日がくるだろうとちょうど教授会で規則改正を決めたから。制服は男性・女性どちらでも着用可だから心配するな」というふうに回答した、らしい。
おかげで今の2回生の代から女子学生はスラックスを選択する子が半数ほど出た。当然、古城さんはその筆頭だった。
中谷ちゃんの眼と眼は相変わらずくっつきそうな感じが続いていた。
「あとね、古城さんの問題は音痴だって言ってる事なのよね」
「えー。『Around the World』上手いじゃん」
疑いの声を上げたのはふーちゃんだった。中谷ちゃんが言った。
「相当練習したからって言ってた。この曲なのかアニメ映画の方なのか分からないけど好きらしくて必死で取り組んだらしいわ」
ふーちゃんは納得した。
「なら練習は耐えられるって事ね。ちゃんとしたモニタ・システムで練習したらなんとかなるか。5月末までまだ時間はあるし」
いやあ、うちのプロデューサーも楽天的だわ。半年切っている状況なんだけど「時間はまだある」と言いくるめてなんとかなると思わせてるねえ、なんて事を中谷ちゃんは考えていた。ふーちゃんが私と同じ判断ならいけるな、うん。
「曲だけどさ、適性見て場合によっては編曲いるね。この子勧誘するなら『Around the World』もティエンフェイバンドバージョンに編曲しなきゃいけないし。このあたりは
摩耶が「えー」と叫んだ
「うわっ、中谷ちゃん、そこ丸投げ?」
「だって、あんたの喉が治ればそりゃそれでいいけどさ。今は喉は無理したらダメだよ。その代わり作曲で無理してね♡」
摩耶は呆れた。無茶苦茶な奴だと知っていたけど、全く以て酷い。ちっとは私をいたわれよ、中谷ちゃん。
朱里は中谷ちゃんの方を見て怪訝そうに言った。
「なんか古城さんが引き受ける前提の話ししているけど、さっきあんたが難しいって言ったよね?何か当てはあるの?」
中谷ちゃんは底抜けの楽天家、嫌な予感がすると中谷ちゃん以外のメンバーの脳裏でその予感がハモった。
「当てならないよ。当たって碎けたって言うじゃん」
ふーちゃん、摩耶、朱里は心の中で盛大にため息をついた。こいつ、テキトーだって知ってたけど、ここまで無鉄砲だったとは。それに「砕けろだろうが」とさらに呆れた。
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