第九章 思い出2-5







傷はマリカに見つかったことをまるで『まずい』とでも思っているかのように、あっという間に内側へと引っ込んで行く。

じわじわと傷の形に皮膚がへこみ、正常な皮膚が再び盛り上がった。


先ほど、マリカの怪我が治った時と同じだ。


その様子はなんだか、和泉の表情も合間って「見られてしまったから、早く治そう」という風で、実際、その通りなのだと思った。


和泉は、マリカの傷を引き受けたのだ。



ありえない光景を、ありのまま受け入れてしまえた自分が、マリカは不思議だった。



「痛かった……ですか」



「いいや」



「今度からはもう、治さないでください。便利というのは、嘘。撤回します。それと、和泉さん。私、ずっと聞きたかったことがあったんです」



「なんだ」



「和泉さんはどうして私をここに連れて来たんですか」



和泉は答えなかった。

表情を変えない和泉を見て、マリカは諦めて和泉の腕を離した。



「……ねえ、和泉さん。安河内さんを守ってあげてくれませんか。あの方、あと少ししたらここを出ていくって。迷惑をかけられないからって」



長いまつ毛をすっと伏せて、「……おやすみ」と呟くと、マリカの頭に軽く手を置いて、和泉は行ってしまった。

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