第82話 バブル崩壊

 


 なんかよくわからない政治パートが終わった。最後まで明がすごかったことしか記憶にない。




 ちょっと頭がついていかなかった気がする。俺が一番偉いはずなんだけどな。おかしいな。




 色々ありすぎた。ミト誘拐未遂事件ってのも起こってたらしいし。




 阻止できなかったら、かなりまずかった。




 ルナが活躍したみたいなので褒めておこう。




 俺のところからもビームが空に向かって発射されてたのが見えた。




 あれ誤魔化すの大変だろうな⋯⋯。




 愛がしばらく死んだ目をしていた。




 俺からも樹液あげるから、元気を出して欲しい。




 そういえば、今何年なのだろうか。




 目まぐるしすぎてよくわからない。




 最初の頃は100年が一瞬で過ぎたからな。




 今更一年ごとの変化に対応しろと言われても厳しいぞ。








 で、今何年なんだろう。




「1989年よ。」




 輝夜が教えてくれた。




 なるほど。思っていたより進んでいたんだな。まだ1975年くらいだと思ってた。




 ⋯⋯そういえば、そろそろまずいことがあった気がする。




 なんだったっけ。失われた20年とかいう単語がちらついてるけど。






 地上はひどく活気付いていた。東京こそが世界第一の都市だと公言してはばからない人もいる。




 他の都市のことは知らないけど、確かにこの賑わいなら、そういうこともありえるだろう。




 なんかヒミコ景気とか地価狂乱とか言われてる。




 ⋯⋯そんな名前じゃなかった気がするんだが。




 確か、確か。




 泡沫のような、そんな感じの。




 そうだ。バブルだ。すぐに崩壊するやつだ。




 すぐさま明に確認をとってみる。




「確かに、株式は下落を始めてますが、すぐに持ち直すかと。」




「いや、俺にはわかる。これからも下げ止まることはない。ついでに言うと、土地の値段もどんどん下がる。今のうちに売り抜けるのが一番賢い。」




「おじいさまがそう言うのなら、一番重要な場所以外は売り払います。」




「どこのことだ?」




「それはもちろん、ここのこと。別の企業に取られたら何されるかわかったものじゃないから。」




 そっか。俺を守ってくれてるのか。嬉しい。




 そして、気づかなかった俺、ダメじゃね。




 いや、木にとっては、土地がどの人間のものかなんてわかるはずがないんだけど。




 むしろ俺のものだろ。何千年前から占有してると思ってるんだよ。




 木にも土地を持つ権利をくれ。






 久しぶりに歴史知識が役に立った。いや、これ俺がもともと持ってた知識なんだろうか。わからない。


 あんなに思い出すのに時間がかかったってことは俺の知識説あるな。俺の成果だ。誇っておこう。




 明は空売りとか言う技術を用いて、急降下する相場の中で逆に利益を出したらしい。




 俺はそんな怖いことできないけど、明は有能だから、それくらいできるだろう。




 ついでに地価も下がった。こちらも急降下だ。本当に泡のような価値だったのだなとしみじみする。




 土地に値段がついてるのがまずおかしいと思うんだ。土地は本来ただの地面だぞ。




 俺が生えると言う意味しか持たないだろ。




 経済とか言うのよくわからない。




 政府は消費税を導入していた。それ、今やるべきことなのだろうか。




 景気は悪くなっていっている。




 それにさらにブレーキをかけるようなことをすれば、当然不景気になるだろう。




 バカなんだろうか。いや、タイミングが悪かっただけだろう。そう信じておこう。






 一国の方針を決める場所がそんなに頭の悪い人ばかりなはずはない。


 なんのために民主主義を採用してると思ってるんだ。




 俺を切り倒そうとしなければ応援してるぞ。




 ちょっと永田町は遠いからよく見えないけど。




 あそこ、皇居の向こうなんだよなあ。見辛い。まあ、無理して見るもんでもないでしょう。






 ●




 明と白はミトと一緒に食卓についていた。




 久しぶりの一家団欒だ。忙しくて暇がなかったのが悪い。




 明はてんでだめだが、白はそこそこ料理はできる。


 明の方が基本的に忙しいのもあるので、作るのはだいたい白だ。


 専業主夫ではないが、それに近い。この夫婦はなかなか先進的な考えを持っていた。




 明の作る料理がどうしてもまずいというのも理由になりそうだが。




 行儀よくご飯を食べる。美味しい食事は幸せだ。




「ところで白。」




 明が唐突に口を開いた。




 白は訝しげな表情をする。また、何かあったのだろうか。


 明は無駄なことは言わないというのが彼の認識だった。




「別にただの雑談だけど。」




「本当に?」




「流石にそこは信じてほしいな。」




 明は困ったように笑う。思いは通じ合っていると思っていても、まだまだ阿吽の呼吸とはいかないらしい。




 その点、将門お義父さまと銀孤お義母さまはすごい。お父様とお母様もだ。


 やっぱり長年連れ添った夫婦というものは息があってくるのだろうか。




 と、思考が横にそれていたことに気づく。




「で、何さ。」




 白は、続きを促した。その膝の上で、ミトがこっくりこっくりしている。




 食事を終えたら眠くなったらしい。




 まだまだ子供だ。




 明は唇を舐めた。少しだけためらう。とはいえ、この話題を作ったのは自分だ。




 話した方がいい。




「私のキャラについて。」




「それはまた。」




 明が言った言葉が面白かったらしく、白はにこにこと笑った。




「あーひどい。私は真剣に悩んでるっていうのに。」




「いやだって、明は明でそれ以上でもそれ以下でもないじゃん。悩む必要もないよ。」




「そう言われるのは嬉しいけどさ。」




「じゃあ、具体的にどんなことを悩んでるの?」




「色々な不一致についてだよ。」






 白は不思議そうな顔をしている。




 明はどう説明したものかと頭を悩ませた。


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