第38話 江戸の始まり
「おじいさまー。ただいま帰りましたー!」
明が名前の通り明るい挨拶をしてくれた。
「よく帰ってきてくれた。おかえり。」
俺は5人全員に言った。
100年ほどの別離だった。
俺が今まで生きてきた年数から考えると微々たる年月だ。
だが、寂しかった。みんな大事な仲間たちだと、再確認できた。
4人の顔を順番に見て行く。
小太郎は精悍な顔つきになった。北条の元でリーダーとして気を張ってくれていた証拠だろう。よくやった。
愛は優しそうな表情を浮かべることが多くなったようだ。親になったからだろう。
気を抜いたらすぐにでも小悪魔モードに移行しそうだから、気は抜けないけど。
将門は呪いを完全に克服したみたいだ。一人だけ差別するのは良くないと思っていたんだよ。
明の教育上ね。
よかった。
銀孤は、なんか腹を抑えてるけど、ひょっとしてひょっとしちゃったのか。
肯定された。
まじか。
いや、男の子でも女の子でも楽しみだ。
なに?
名前を考えておいてほしい?
そうか。
V○uberのストックあるかなあ。男の子だったらどうしよう。
ばあ○ゃるとか付けられても嫌だろうし。
うん。後回しにしよう。
俺は逃げた。
5人とも、とりあえず木の上で生活させることにした。
俺の下の混雑は前とは比べものにもならないくらいになっている。
気軽に下に降りるのは難しい。夜中にこっそり行くしかない。忍術を覚えているか、雲乗りで別のところに降りられるなら別だけど。
小田原城は落ちたみたいだ。よく5ヶ月も耐えたものだと思う。
そして、徳川家康がやってきた。
関東を与えられることになったらしい。
俺の近くの江戸城に入城した。
ここが関東の真ん中ということをよくわかっているな。
江戸城は近かったので、俺の場所からでも中の様子がよく見えた。
太った男が上座でテキパキ指示を出している。
優秀そうだ。
あれが東照宮家康か。
死んだ後は神社が作られるようだし、仲間かもしれない。
俺も祀られてるもんな。
それはそうと、挨拶はまだかね。俺のお膝元に都市を作るんだったら一言あってもいいだろう。
まあ、忙しそうなので、気が向いた時でいいよ。お参りしてね。
そんな俺の言葉が通じたのかわからないが、家康はちゃんとお参りにきた。
ウンウン。いい心がけだ。できる範囲で統治に協力しよう。
人心の安定なら任せてくれ。
北条氏は税率を四公六民にする善政を敷いていたが、家康もこれを引き継いだ。
トップが変わった後は混乱が起こってもおかしくないと思う。
うまく治めているのか、関東は平和の一言だ。
さすがは江戸300年の平和を築いた男だ。素晴らしい手腕だ。俺は素直に感心した。
利根川の改修工事をするみたいだ。
あの川、よく俺のそばまで氾濫するんだよなあ。
神様の土がなかったら危うかった。この土、水の吸収率が優秀すぎる。
一応少しは高台なので、ギリギリなんとかなっている。
とはいえヒヤヒヤさせられることは間違いない。
利根川がおとなしくなるのなら大歓迎だ。
家康の元で江戸はどんどん発展していった。
関ヶ原はいつの間にか過ぎていて、徳川幕府ができたらしい。
気づかなかった。関東以外で行われる合戦なんて気にしなくてもいいだろう。
これからは江戸時代。俺が最も安心できる平和な時代だ。
ようやく戦国を切り抜けた。
俺はほっと一息ついた。
さあ、世界有数の百万都市の始まりだ。
ここからは江戸の街が一望できる。その活気溢れる状況が簡単に見てとれる。
賑やかだ。
人間としての心がウキウキしてくる。
俺の関東の時代がついにやってきた。
火事と喧嘩は江戸の華ってな。
⋯⋯ん? なんか、聞き逃せないことを思い出した気がする。
火事と喧嘩は江戸の華。
⋯⋯火事。
やばいやばいやばい。死亡フラグが立ったぞ。
華と呼ばれるほどに火事が多かったと。
これ、ひょっとして戦国時代より危ないんじゃないか?
やばいやばすぎる。江戸に入ればもう安心だと思ってた。
そんなことなかった。
火消しの組織は?
愛に尋ねた。
まだできていないとのことだった。
これもう無理では。いや、諦めるな。
俺は全員を江戸の街に放った。
俺の樹上を観察している望遠鏡を持った人が増えていたのもある。
どうも、そこにだれかがいると噂になっているらしい。
輝夜は寂しそうだったが、そんなこと気にしてる場合じゃない。
全員総出で火事の元を消させた。だが、これだけで手が回るとは思えない。
だが、有効な手を打てない。
いつ大火事が起こったのかまでは把握しているが、その原因はわからない。
くっ。この謎の歴史知識でも無理なものがあるのか。
仕方ない。
俺は耐火性をさらに上げることにした。100mまでをガッチガチに固めてやる。そんじょそこらの炎では焼けないように。
6人は、仮拠点を作ったらしい。
夜ごとに明と輝夜がやってくるので、離れた意味は正直ない気がしてきた。
俺も寂しいし、歓迎している。
歓迎していたらみんな夜は俺に登ってくるようになった。それでいいのか。
みんなのことも守らないとな。俺が、主人なんだから。
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