およよ脈あり
今日もまた、ヒロシが泣きながら帰ってきました。
ヒロシ「うわーん、マルぼーん」
マルぼん「どうしたんだい、ヒロシくん。またナウマン象にいじめられたのかい? それとも金歯の自慢話にプライドが傷つけられた? あ、ルナちゃんに嫌われたとか。テストで0点を取って、ママさんに叱られそうとか? それとも、ママさんの彼氏からのしつけ? 近所の野良犬に噛みつかれた?」
ヒロシ「ちがうよー、うわーん」
マルぼん「なら、いったいどうしたの」
ヒロシ「働かなくても一生楽して暮らせる人生を送りたいだけど、このままの人生だったらどうも無理くさいんだよー! うわーん!」
マルぼん「かつて、こんなに欲望に忠実すぎる涙の理由があっただろうか」
ヒロシ「そんなこと言われても、銭が欲しいんだよ、うわーん! 命尽きるその瞬間まで遊んで暮らしたいよー! うわーん! 道具出しておくれよ、うわーん! 道具がないなら銭を出してよー! 多額の銭をよー! うわーん」
マルぼん「やめろよ、やめろよ!」
泣きながら、「金! 銭!」と叫んでマルぼんにしがみついてくるヒロシ。体に涙とか唾液とかがついて気持ち悪いことこの上ないので、今年一番の暴力を駆使して跳ね除けてやりました。
跳ね除けられたヒロシは勢いで壁にぶつかり、床に転がったままピクリとも動かなくなったので一瞬焦りましたが、小一時間ほどすると回復して動き出し、二時間後には寝転がったまま手足をバタバタさして「銭やー銭をよこすんやー」と騒ぎ立てる始末。
マルぼん「楽して暮らしたいと言うけれども『働けるのに働かざるもの餓死しろ! そして大地に還れ! せめて肥やしになって、全人類に役立て!』と、昔から言うだろ」
ヒロシ「それでも僕は楽して暮らしたいんだ! 労働で一粒の汗も流すつもりはないと、ここに宣言するっ」
ゆとり教育ってひどい。だってこんなダメ人間を世に生み出すのだもの。神ちゃまのバカ! 誰が政治しとるのかっ。
ヒロシ「今後の人生で一瞬でも僕に苦労させたら、マルぼん。君を殺す。殺して死体をバラバラにして、ブタに食わす。そして、そのブタをおまえの親に食わせて、完食した後に真実を伝える」
マルぼん「そんなご無体な!」
ヒロシ「僕の言うことが聞けないのかな、マルぼん」
マルぼん「くっ」
バカなと言っても、マルぼんはヒロシに従うしかありません。なぜならマルぼんは生殺与奪の権をヒロシににぎられているからです。マルぼんの体には創造主によって自爆装置が仕込まれており、この起爆スイッチをヒロシは持っているのです(今回から付け加えられた設定です)。マルぼん爆発による死者は、10万人を超えると、識者は推測しております。
マルぼん「わかったよ。なんとかするよ・・・・・・」
ヒロシ「お願いしますよ、げへへへ」
マルぼん「まぁ、アレだ。楽して暮らすにはやはり銭が必要。いかにして銭を稼ぐか、だね」
ヒロシ「金脈とかを掘り当てるとか、どう?」
マルぼん「あーアリだね。たしか金歯のオヤジさんもそれがきっかけで財を成したんだ」
今から数十年前、金歯の父親は野良仕事の最中に偶然金脈を発見し、それを元手にして今の地位を築き上げました。微笑町の人間の大多数が金歯の関連会社に勤めています。人々は安い賃金で泥のように働きます。金歯一族のフトコロを温めるため。金歯一族を肥えさせるため。妻を、娘を、恋人を、金歯に取られたとしても、黙っていることしかできないのです。こんな状況許せるか。許しておけるのか。「許せぬ!」と立ち上がった男たちがいました。プライドのため、男たちは絶望的な戦いを始めたのです。でもこの話には関係ないのでかつあーい。
とりあえずマルぼんは、機密道具をだしてみることにしました。
マルぼん「『脈あり!? キャッキャッウフフ人形』! 近くに鉱脈やら温泉脈やらがあったら『もしかして脈ありかも!?』と思えるよう発言で、知らせてくれる人形なんだ。こいつを使ってみよう」
さっそく人形の起動スイッチを押してみると
人形『ならアタシ、彼女に立候補しちゃおっかなー。ならアタシ、彼女に立候補しちゃおっかなー』
マルぼん「おお、早速の『もしかして脈ありかも!?』発言! 喜べ、この町のどこかに金脈があるかもしれないぞ!」
ヒロシ「しかし随分とかわいらしい声で言葉を発するね、この人形」
マルぼん「未来の世界の売れっ子アイドル声優が声を担当しているからね。それは可愛いさ。萌えるだろ?『萌え』は開発者のこだわりなのさ」
ヒロシ「こだわっているワリには、なんで外見が討ち死に寸前の侍みたいなの、この人形? 髪は振り乱しまくりだし、矢とかあちこちに刺さっているし、どうみても男じゃないか。アイドル声優声とまったく合ってないよ」
マルぼん「うるさいな。未来の世界ではこういうのが『萌え』とされているんだ スタンダードなんだよ。性の奥深さ、なめんなよ?」
ヒロシ「どうやらオタには相当厳しいことになっているみたいだね、未来」
マルぼんとヒロシは『脈あり!? キャッキャッウフフ人形』をもって周辺をうろうろしました。鉱脈やら温泉脈やらに近づけば近づくと、より『もしかして脈ありかも!?』発言をしてくれるのです。人形の発言に導かれ小一時間ほどウロウロすると、学校の裏山にたどり着きました。
人形『か、かんちがいしないでよね! 別にあんたのために作ってきたわけじゃないんだから。作りすぎただけなんだから! か、かんちがいしないでよね! 別にあんたのために作ってきたわけじゃないんだから。作りすぎただけなんだから!』
マルぼん「この発言! どうやらこの近くにあるらしいぞ!」
ヒロシ「ここは、母さんが父さん(当時)の保険金をはたいて買ったちょっとした山じゃないか。まさかここの金脈っぽいものがあるとは!」
微笑町はかつてはたくさんの金脈があり、江戸時代は罪人の流刑地として有名だった町。未発見の金脈があっても不思議ではありません。
マルぼん「早速掘ってみようぜ」
ヒロシ「2人で? 何年かかると思っているのさ」
マルぼん「でも、人を雇う余裕はないし、無償で手伝ってくれる知人もないし・・・・・・あ、そうだ。ルナちゃんとナウマン象に頼んでみようか。金脈の儲けを少し分けるとか言って。ルナちゃんはフランスではカルト認定されている某宗教の幹部だし、ナウマン象はプロのガキ大将。きっと人数を集めてくれるはずだよ」
ヒロシ「むー。それしかないかー」
そんなわけで2人に連絡。儲け話が三度の飯よりも好きな2人は、たくさんの人数を連れてやってきてくれました。ヒロシの周りには、チンピラみたいな人たちと、頭に怪しいヘッドギアをつけて死んだ魚のような目をしている人たちが溢れかえっています。OH! ファンタスティック!
ルナちゃん「ここの金脈だかなんだかが眠っているのね」
ナウマン象「俺たちに任せろよ! 黄金の夢を見せてやんよ!」
ルナちゃん「貴様ら、ここでがんばらないと地獄に落ちるわよ!」
信者たち「きょえー!」
ヒロシ「うわー、なんて頼もしいんだろ!」
そんなわけで採掘開始。山に横穴を掘って掘って掘り進めていくことにしました。チンピラが掘り出した岩を、うつろな目をした怪しいカルト宗教の信者が運び出します。普段は接点のない人たちが同じ目標のために、力を合わせているのです。ああ、なんと美しい光景なのでしょう。
ヒロシ「こういうのをパラダイスって言うんだろうね」
マルぼん「言わないな、うん」
数時間ほどすると、だいぶ掘り進むことができました。横穴は既に、ちょっとした洞窟のようです。
マルぼん「うふふふ。だいぶ掘れたねえ。そろそろなにかしらが出てきてもおかしくないよ」
ヒロシ「なにが埋まっているのだろうね。金かな銀かな。未知のレアメタルかな」
ルナちゃん「温泉とかでもいいわね」
ヒロシ「金脈が銀脈か温泉脈か・・・・・・それ以外の鉱脈か。興味は尽きないね!」
ナウマン象「ぐふふ。感謝しろよ。ここまで順調に掘り進んだのもも俺たちの幅広いアレがあってのことだ」
ヒロシ「アレってなにさ」
ナウマン象「アレだよ、アレ。えっとほら、アレ! 喉元まで出てきているんだけど。じ…じが始まる言葉なんだ。じ…じ……」
と、その時。突如として烈しい揺れが!
ナウマン象「じしん!?」
マルぼん「ち、ちがう! 掘りすぎて落盤が起こったんだ! 崩れるぞ!」
ヒロシ「逃げろーこのままじゃ生き埋めだー!」
一同「ひょえー!!」
一斉に逃げ出そうとしましたが、時既に遅し。タイムイズマネー。烈しい落盤のせいで、マルぼんどもは全員埋まってしまったのです。
すぐに救助隊が駆けつけて救助活動が始まりましたが、難航。助け出された人のほとんどの死亡が確認されました。後、救助活動に参加した地元猟友会の男性は当時のことを次のように述懐しました。
「現場は地獄でしたわ。たくさん人間が穴掘りに従事していたんでしょうね。掘っても掘っても人が出てくるんですよ! 死体で! 軽くひきましたわ。わしは若い頃、金歯さんとこの金山で採掘作業のバイトをしていましたが、アレを思い出しました。まるで人間の鉱脈です。これがホントの『人脈』・・・・・・なんちゃって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます