放課後少年奴隷
今日もヒロシやナウマン象ら微笑町の子供たちは、岩やらなんやらを、採掘現場から工事現場まで運搬する仕事に従事しております。岩やらなんやらは、最近亡くなった金歯の親戚の墓を建造するのに使われるものです。
微笑町に住む社会人の勤め先、その90%が、大富豪である金歯のお父さんの影響下にあります。そのため、微笑町の大半の人々は、金歯が「死ね!」と言えば死なねばならず、「あたいのこと好きって言いなさい!」と言えば「大好きです」と言わねばならず、「1秒でもいい、私より長生きして」と言えば長生きせねばならず、まぁ、言うなれば奴隷扱いなんスわ。
そんなわけで、飲まず食わず&ボロボロの格好で、子供たちが強制労働させられても、親は文句のひとつも言えやしないのです。
ヒロシ「重い重い重い」
自分の同じくらいの大きさの岩が2~3個乗った台車を押しながら、ヒロシが言いました。
マルぼん「泣き言ばかり言ってないで、きりきり働きな!」
ヒロシ「あうちっ」
女々しいヒロシを、容赦なく鞭で打ちつけるマルぼん。労働に従事する子供たちが怠けないように監視する仕事をしているのです。いつも便利な道具で子供たちの味方をするマルぼんですが、子供たち以上に強いものの味方でありたいのです。
ヒロシ「働けと言うけどさ、本気で重いんだよ、この岩」
マルぼん「沢谷くんを見てみろ、楽々運んでいるじゃないか」
ヒロシのクラスメイトである沢谷果太郎くんが、自分の倍くらいはある岩を背負いマルぼんたちの目前を駆け抜けていきます。その顔のさわやかなこと。
沢谷くん「俺が背負っているのは岩ではなく、未来。そう考えることで、重さなど感じなくなるんです」
マルぼん「発言も、『別に頼んでもないのに、毎朝郵便受けに入れられている某宗教の機関紙』に載ってそうなくらいさわやか! なんともまぁ、立派な男だ。少しは見習えよ、ダメ人間」
ナウマン象「沢谷のヤツは、金歯の靴を舐めて媚を売り、自分の運ぶ分に極端に軽いヤツをあてがってもらっているんだよ。俺、見たんだ、靴を舐めているその現場を。夢の中で!」
ヒロシ「ぐむむ。おのれ、沢谷。おのれ、人間ども。こうなれば、こいつを使うしかない」
懐からなにやらスプレー缶を取り出すヒロシ。それは、数日前にマルぼんが紛失した『吹き付けるとどんなものでも重くしてしまうスプレー』ではありませんか。
マルぼん「貴様、マルぼんが油断している間に盗んだのだな」
ヒロシ「こいつを沢谷の背負っている岩に吹き付けてやるぜ!」
沢谷くんにこそこそ近づいて、沢谷くんの岩にスプレーを吹き付けるヒロシ。
沢谷くん「あれ、大沼くん。なんだい?」
ヒロシ「いひひひひ。なんでもないよ」
マルぼん「ばかものっ。あのスプレーは、重くすると言っても、物理的に重くするものじゃないんだぞ」
ヒロシ「へ?」
と、そのとき。ヒロシの背中に、矢が1本、いきなり突き刺さりました。続けて2本。3本。4本。5本。ドサッと倒れるヒロシ。
ナウマン象「ああ、盗賊だ!」
気づくと、岩を運ぶ子供たちは、弓矢で武装した男たちに囲まれていました。金歯一族の墓の建造に使用される岩は質が良く高く売れるので、運搬中、盗賊に襲われることがしばしばあるのです。
沢谷くん「大沼くん、キミは俺が狙われていることに気づいて……わが身を呈して……」
ヒロシ「ちが、う。お、おまえを、ま、まもろうとし、したわけじゃ、なく、て……げふっ」
沢谷くん「そうか、岩だね。この岩を守ろうとしたんだね。ああ、キミはなんて職務に忠実な男なんだ」
ヒロシ「……(虫の息)」
ナウマン象「ヒロシ、大丈夫……ぐはっ」
ヒロシに駆け寄ろうとしたナウマン象の頭にも、矢。
沢谷くん「ナウマン象くんまで、この岩を」
沢谷くん、静かに立ち上がると、いきなり駆け出しました。盗賊たちに放つ矢の嵐の中を、岩を背負って駆け抜けます。流れる涙を拭おうともせずに。「この岩だけは、こいつだけはなんとしても届けねばならぬ」
友が、友たちが命をかけて守ろうとした岩を背負って。敗れた友の涙が、汗が、血が、魂が染み付いた岩を背負って!
マルぼんは単なる岩も、色々と重くしてしまった『吹き付けるとどんなものでも重くしてしまうスプレー』の効果は絶大だと思いました。
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