みんな僕の悪口を言う

 今、微笑町では丑の刻参りが大ブレイク!



 老いも若きも男も女も、お気に入りの木を見つけては、五寸釘とワラ人形(きらいな人の髪の毛とか爪とかアレとか入り)をお供にハッスルハッスル!



 マルぼんたち微笑町のろくでなし共の黒いアイドルことルナちゃんも、愛する尊師の教えも無視して、このブームに乗りまくり! でも



ルナちゃん「私より幸せな人間、全滅だぁ。全滅だぁ」



 ルナちゃんの見初めた木は、ヒロシ宅の庭の木だったのです。


 

 毎夜のように続くルナちゃんの丑の刻まいり。最初は「ルナちゃんの『死ね』発言萌え~」「例の尊師もしらないようなルナちゃんのどす黒い一面萌え~」「ルナちゃんと結婚できる機密道具だして!」と、まるで快楽が半世紀続くバラダイスにいるかのように恍惚とした表情を浮かべていたヒロシですが、そのうち「眠れない」「ルナちゃんが襲ってくる夢をみた」「死にたい」「あ、あれはおばちゃん。僕も天国に連れてって!(おばあちゃん「てめえ、天国に来られると思っているの笑)」)「あへあへあへへへへ……」などと、専門の医師にしかわかんないことを口走りだしたので、マルぼんとっても不安です。



マルぼん「あれ、一応ヒロインだぜ。なんとかしようよ」



ヒロシ「やだね」



マルぼん「じゃあ、せめて悪口を言って、憂さ晴らしでもしようや。むかつくだろ」



ヒロシ「下手なことを言って、ルナちゃんの耳に入って嫌われたらいやだもーん」



マルぼん「この鍋料理を食してみなさい」



ヒロシ「冬場に、取り憑かれたように食べたからなぁ。鍋料理はもうこりごりだ」



マルぼん「まぁいいって。食べてみなって。食べろよ。さぁ、口をあけろ! その醜い口を!! さぁ! さぁ!!」



ヒロシ「んごっんごっ」



 ヒロシの口に鍋の具を、強引に押し込むマルぼん。



ヒロシ「な、なにをするんだ! この、どこのドブから生まれたかもわかんないきもい生き物め!」<



マルぼん「この鍋の具は『バッシン具』。食したら、どんな罵詈雑言を言っても、相手に嫌われなくなるんだ」



ヒロシ「そういえばさきほどもマルぼんのことをバカにした時、カケラも心が痛まなかった!」



マルぼん「うふふふ」



ヒロシ「よし、もっともっと『バッシン具』を食べて、ルナちゃんをバッシングだっ。もふもふもふ(←食べる擬音)」



マルぼん「ああ…食べすぎだよ、一応医療品だから食べ過ぎたら副作用が」



ヒロシ「ぶべらっ」



 さくっと吐血して倒れるヒロシ。『バッシン具』は確実にヒロシの体を蝕んでいたのです。ヒロシ危篤の一報を聞いて、ルナちゃんはじめ、いつもの仲間たちが駆けつけました。



ルナちゃん「ヒロシさん」



 今回の騒動のきっかけは、ルナちゃんの丑の刻参りにあります。それさえなかったら、自分はこんなことにならなかったのでは。死にゆくヒロシの心に、ふつふつと怒りが湧いてきました。



ヒロシ「…ル、ルナちゃん、死…ね」



 少しでも恨みを晴らすべく、ヒロシは最後の力を振り絞って、ルナちゃんの悪口を……



ルナちゃん「ああ、錯乱しているのね…」



ヒロシ「ば…いた…ルナちゃん…ば…い……た」



ルナちゃん「ヒロシさん、意識がもうろうとして、珍妙なことを口走って……かわいそうに。しっかりして。しっかり!!」



ヒロシ「あ、はは…すごいや。『バッシン具』……悪く言っても……ルナちゃん…怒ら…な……い」



 マルぼんは『バッシン具』の効果は絶大だと思いました。

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