ヒロシ、星たちが輝く夜明け

 最近のヒロシ、実はルナちゃんに魅力を感じなくなってしまったのです。



 昔はルナちゃんが好きで好きでたまらなくて、気をひくために土地を含めた全財産をルナちゃんの好きな宗教団体に寄付してみたり、ルナちゃんの名前を腕に彫ってみたり、自分とルナちゃんの婚姻届を勝手に提出してみたり、ルナちゃん宛の郵便物が自分の家に届くようにしてみたりしていたのですが、今は本気でどうでもよく、時折名前すら思い出せなくなるくらいです。



 そんなワケでヒロシは新しいヒロインを見つけるべくマルぼんにいい感じの機密道具をせがんでみました。



マルぼん「これなんてどう? 『愛米(ラブコメ)』。食べた人は、異性と思わず胸がキュンとしちゃうような出会い方ができ、末永いお付き合いができるようになるんだ」



 ヒロシは『愛米』を光の速さで摂取して、いつどんな出会いがあるのかワクワクドキドキしていたんですけど、気づけば朝の8時。このままでは遅刻ということで、家の外へととび出しました。



 朝食の木の根っこを砂糖水に一晩浸したヤツを咥えながら、いつもの通学路を激走するヒロシ。ちょうど、家から最初の曲がり角にさしかかった時でした。



女の子「キャ!」



 ヒロシは、角の向こう側からでてきた女の子と出会い頭にぶつかってしまったんです。



 ぶつかった勢いでふっとばされた女の子は、ヒロシと同年代くらいの、とても愛らしい女の子でした。



 で、その時ヒロシはピンときたんです。これが『愛米』の効果だって。





 たぶん、この直後僕はは不可抗力でこの女の子のパンツを見てしまうはずだ。



 それで「パンツ見たでしょ! 痴漢!」「ち、ちがうよ! 不可抗力だよっ!」なんて感じで口論になるんだ。でも2人とも遅刻寸前で、その場はうやむやになってしまう。僕はなんとかギリギリ学校に間に合い、朝のホームルームに参加する。ホームルームでは転校生の紹介が行なわれ、その転校生はさっきの女の子なんです。「おまえは!」「あー! さっきの痴漢!」「なんだなんだ、オマエたち知り合いかー!(注・先生の発言)」ってなことになる。これ以来、僕と女の子はことあるごとに言い合いをしてしまう間柄になるも、いつしか互いに気になる存在になってしまうんだ。



 ああ。ベタだけど理想的な展開。



 素晴らしい機密道具を出してくれたマルぼんと、僕のウキウキ新生活に乾杯! 感謝感激雨アラレ!



ゴン



 ぶつかって吹っ飛ばされた拍子に地面に頭を打ちつけた女の子は、打ち所が悪く、まもなく息を引き取りました。



 翌日。昨日の女の子の断末鬼の顔と声が、頭から離れなくなったヒロシ。



 眠れば夢に彼女がでてきて、起きていれば壁のシミが彼女の顔に、全ての物音が彼女の声に感じられ、もう発狂しそう。



 さっき風呂に入ったら尋常じゃないほど髪が抜けたので「こいつはマズい」と思ったヒロシは、マルぼんに相談してみました。



マルぼん「それは恋わずらいだね」



 ヒロシはあきらかに違うと思いましたが、マルぼんが言うならその通りなんだろうと思うことにしました。



マルぼん「とりあえず、アタックあるのみ。彼女に自分の気持ちを素直に伝えるんだ」



 マルぼんのアドバイスにしたがって、ヒロシは彼女のところ(近くの墓地)へ向かい、彼女の墓前に向かって手を合わせ、ありったけの想いを線香に込めて告白したんです。「許してください」って。



 するとどうでしょう。ヒロシの沈んでいた気持ちはとたんに晴れてきて、どんなことでも前向きに考えられるような気持ちになってきたんです。



 帰宅後、しばらく部屋でニヤニヤしていると、テーブルに置いてあったコップが、突然宙を舞い、壁にぶつかって壊れてしまいました。



 そのあとも食器や電気スタンドが飛びかったり、美少女フィギュアの目から血が流れ始めたり、肘になにか金属片を埋め込んだような跡があるのをみつけたり、二時間ばかし記憶が飛んだり、ペットの馬がしゃべりだしたり、マルぼんが急に燃え出したりと怪現象続出。



 ヒロシはピンと来たんです。



 彼女が来てるって。自分に会いに来ているって。



 彼女は、死してなお僕のことを想ってくれているんだ。



 ここでひいては男が廃る。



 ヒロシは彼女の想いを全身で受け止めることにしました。こうして、ヒロシにもついに彼女ができたのでした。



 翌日。ヒロシが彼女ができたことをナウマン象たちに自慢したら、「証拠をみせろ」と詰め寄られたので、昨日の騒動で破壊されたコップや電気スタンド、しゃべる馬、燃え尽きて灰になり物言わぬ体となったマルぼんなどを見せたんですが、信じてもらえませんでした。



 なんとか彼女の存在を示したいのですが、彼女は実体のない霊魂。証拠の示しようがありません。



 いかに霊魂だけの存在の恋人の存在を証明するか悩んだ末、ヒロシは自分で自分の写真を撮ることにしました。



 彼女が近くにいたら、必ずや写真に写ってくれるハズ。



 そんなわけで、パチリと一枚目。写真の右上の方に、小さい光の球体のようなものがいくつか写っていました。



 二枚目。写真全体に霞がかかったように白くなっていました。



 三枚目。写っている僕の方の部分に、覚えのない手が!



 四枚目。後ろの方に人の顔のようなものが。彼女にちがいありません!



 五枚目。僕の左足が、まるでそこにはなにもなかったかのように写っていませんでした。(直後、左足に激痛)



 六枚目。僕自体が写っていませんでした。(直後、体中の毛穴から出血)



 七枚目。写真から、人が(省略)



 八枚目。もうだめで(省略)



 九枚目。たすけ(省略)



 十ま(省略)



 こうしてヒロシは、ナウマン象たちに恋人の存在を証明することができたのでした。


 

 翌日。ヒロシが起きたら、異様に体重が落ちていたり、厄除けのお守りが燃え出したり、髪が全部白髪になっていたり、洗面所の蛇口から血がでてきたり、ペットの馬がしゃべりだしたり、僕が町を歩いてただけで近所の犬が一斉に吠え出したり、見知らぬおじいさんに涙をながして拝まれたりしたんですけど、愛する彼女がいるということを思い出すだけで、幸せで笑顔が絶えません。



 ぶっちゃけ、このまま死んでもいいかな、なんてヒロシが思っていると、誰かが訪ねてきました。



 訪ねてきたのは女の子でした。あの日、登校途中にぶつかった彼女です。今、ヒロシに憑いているはずの彼女です。




彼女「いやー。その節はご心配かけまして。ぶつかった時、一瞬気を失ったわけなんですが、命に別状ないですから。それじゃ!」



 本当にどうでもないようで、元気に走り去っていく女の子。



 よかった。生きていたんですね。ハハハ。



 よかったよかった。ハハハ。 















 今、僕ヒロシのまわりでリアルタイムでラップ現象引き起こしているお茶目な輩は、いったいどこのどいつの霊なんでしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る