無常ちゃん

ナウマン象によるヒロシのいじめ問題は、けっこうな勢いでいきつくとこまでいきついていたのです。



ナウマン象「おい、ヒロシー! 新しいギロチン買ってもらったから、その使い心地を確かめさせろよ!」



ヒロシ「ひょえー! いじめの範疇超えているよう!!」



ナウマン象「大丈夫。大丈夫。この前、それなりに歳がいった某有名人の本を読んだら、いじめについて書いているところがあったんだけど、子どもの頃に自分がガキ大将でいじめっ子だったことを明かしつつ、『僕らは確かにいじめをしていたが、それの反面、野犬やよそのガキ大将が来たときは守ってたりしていたし、それはいじめられっ子もわかっていたはずだし、感謝もしていたのではないか。僕らの時代のいじめと今の時代の陰湿ないじめを同じにしてもらったら、困る。というか、僕らのやっていたことはいじめじゃないな。コミュニケーションだよ、コミュニケーション』みたいなことを書いていたんだよ。いじめっ子からの一方的な視点のクソみたいな発言だし、じゃあ、今のいじめっ子が、大人になって『たしかにいじめたけど、いじって美味しくしていたという面もあったし、

それはいじめられっ子もわかっていたはずだし、感謝もしていたのではないか』とか言ったら、いじめじゃなくなるのかよってな話だ。少しはいじめられっ子視点になれったんだ。いじめっ子の、自らの過去の肯定とか美化超ウゼー!! とか思ったんだが、まぁ、とどのつまり、昔風のいじめはいじめじゃないんだ。だからこのギロもいじめじゃないの! コミュニケーション!!」


ヒロシ「ひぇー!!」 



ナウマン象「いっくぜー!! レッツ切株っ!!」



 そんなわけで、無残にもギロチンにかけられたヒロシの首は、胴体を離れ、宙を……舞いませんでした。舞ったのは、ナウマン象の首。ギロチンを使ったナウマン象の首。



ナウマン象の部下「な、なんだ、なにが起こったんだ!?」



ヒロシ「おいカスども。親分が死んだら、なにもできないのかい」



ナウマン象の部下「い、言わせておけば! ギロチンにかけられたまま偉そうなことを言いおって! 者ども、ヒロシを痛い目に併せてやれ!!」



ナウマン象の子分たち「うおー!!」



 ギロチンにかけられたままのヒロシに、殴る蹴るの暴力をくわえるナウマン象の子分たち。しかし、あらゆるところから血を流し、痛みにのたうちまわるのは、ヒロシではなく彼らなのでした。



ナウマン象の部下「ば、ばかな。ばかなばかな」



 その後も、ナウマン象がヒロシをいじめるために集めた世界各地の猛者が、ヒロシを攻撃しては傷つき、痛めつけては傷つきして、その命を散らして至ったのでありました。後に残ったのは死体の山と、泣き叫ぶ遺族と、勝ち誇るヒロシ。



ヒロシ「はははは。思い知ったか、いじめっ子ども。実は、こんなこともあろうかと、『傷つけられたら、相手にそっくりダメージを返してしまい、しかも自分は無傷無痛な薬』という機密道具を使って、この場に臨んだんだ。はははははは。うっ」



 高笑いをするヒロシを、急な腹痛が襲いました。急いで病院を受診したところ……



ドクター「こりゃひどい腹膜炎だ。すぐに手術せんといかんよ、チミィ!」



 そんなわけで手術が始まるわけですが



ドクター「それじゃ、この辺をメスで……ちょちょいっと……い!? いててて!?」



看護師「あ! ドクターの腹に、まるで、メスで切ったような傷が」



  そんなわけで、受けたダメージをそっくり返してしまうヒロシを手術することのできる医者がおらず、ヒロシは手遅れで返らぬ人に。火葬しても担当した人の体が燃えちまいそうということで、その遺体はその辺に打ち捨てられ、その朽ちていく様は、見る者に否応なしに死を意識させ、世の無常さを心に刻ませることになったということじゃ。めでたしめでたし。

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