第63話 サイド盗賊 バトス盗賊団 その後

 

 傭兵団の新入りに、パズンという若者が入った。

 その瞬間、頭に切り刻まれる己の姿が浮かんだ。


「オイラの能力は絶対記憶です。これからのバトス傭兵団の栄光の記憶をすべて後世に残したく入団いたしました」


 田舎から出たばかりのこの若者を見たときに、すべてを思い出していた。


「絶対記憶。覚えているか? 俺の最後の言葉を」


 パズンは静かにうなづいてこう言った。


「パズン、記憶しろ。そして、忘れるな」


「ああ、そうだ」


 終わらない。永遠のループ。

 俺達は再び、盗賊団に身を落とし、エーテシア山岳地帯で倒される。

 その為に存在している。


「団長、オイラ達はここから抜け出すことができるのですか?」


 奴の言葉を思い出す。


『この世界は俺が作ったのだろう。だが俺もただのゲームの駒だ。記憶はなく、ただこのゲームに参加している』


『俺が死んでも、永遠に代わりの俺がゲームに参加するだろう。それを神と呼ぶならばなんとも安っぽい神だろうか』


「俺達が抜け出すことはないだろう。この世界が消滅するまで永遠に繰り返す」


 俺達は知っている。

 そうだ。記憶しているのだ。


「だが、このまま同じ事は繰り返さない。次は、いや次の次の次かもしれないが、いつか俺達は奴を倒す」


 パズンがうなづく。


「今からエーテシア山岳地帯の情報を集める。利用できるものをすべて利用する。傭兵団であるうちに出来るかぎりの武器を確保し、迎え撃つ」


「了解です、ボス」


 パズンが声をあげる。


「まだボスじゃなくて団長だ」


 思わず笑ってしまう。


「ああ、それとレラとは早めに結婚しろ。俺が許す。来たる時まで幸せを噛み締めておけ」


「りょ、了解です、団長っ」


 こけそうになりながら部屋を出るパズン。

 終わらんよ。俺達は神が相手でもあきらめない。

 何度も繰り返すというなら何度も倒す。

 それだけだ。



 パズンがその情報を持ってきたのは盗賊団になりエーテシア山岳地帯に移ってからのことだった。


「前回との相違点があります」


 アジトにしていた洞窟に相違点があるという。

 前は全滅したゴブリンのアジトを根城にしていたが、その中が微妙に違っているという。


「全体的に前より大きく広がっています。ゴブリンの身長でしか通れなかった道が、オイラ達でも通れるようになっています」


「誰かがここで住んでいたのか? 前の周回ではいなかった誰かが」


 パズンは何かを考えているようだった。


「ここと、ここ。足跡のようなものがあります。人間のものじゃない。だがゴブリンのものにしては大きい」


 確かに、そのサイズは人間並みのサイズだ。

 しかし、見たことのない足跡だ。


「人型のモンスターか、もしくは人化できるモンスターか。なんのためにここに来たのか」


「気になりますね。調べてみます。この相違点はオイラ達にとって重要なことのような気がします」


 その日からパズンは足跡の正体を掴むため、様々な研究をした。


 そして、ある日、パズンがスゴロクという異国のゲームを持って帰ってきた。


 サイコロを振って駒を進めゴールを目指す。

 途中のマス目には、モンスターがいたり、宝箱があったり、様々なイベントをクリアしてあがりを目指すというゲーム。


 木で掘られた駒を手に取りパズンは言った。


「この駒が神だとしたらオイラ達はスゴロクの中の一つのイベントに過ぎない」


「ああ、まさにそうだな」


 そのスゴロクゲームは良く出来ていた。

 ただゴールを目指すだけではクリアはできない。

 途中のイベントをクリアしていき、レベルを上げ、ラスボスを倒さないとふりだしに戻ってしまう。


「ふりだしに戻ったとき、このスゴロク盤は新しいのに変えられる? たとえば駒をぶつけて盤を壊してしまった。すぐに全部捨てて総入れ替えする? 違いますよね。そのままこの盤で遊ぶはずです。少しくらい壊れたりしても直して遊ぶでしょう」


 パズンの言っていることは多分正しい。

 足跡の正体はわからないが、目的はわかったような気がした。


「この世界を直している存在がいます。それは多分、世界を作った神じゃない」


 そうだ。神は記憶もなく、ただゲームをしているだけに見えた。


「推測ですが、ゲームを作った神と、ゲームの中に神を入れた者は違う存在じゃないでしょうか」


 それが正しければ、倒さねばならないのは神をゲームの中に入れた存在ということになる。

 そして、その存在は決してこちらには来ることがないだろう。


「その存在を倒したい。そう思いますか、団長」


「ああ」


 うなづくとパズンは床に置いてあったスゴロクを持ち上げた。

 それをおもいっきり地面に投げつける。


 バラバラになった駒や、イベントの宝箱、サイコロやルーレット、モンスターがそこらじゅうに飛び散っている。


「パズン、お前っ」


 何をする、と叫ぶ前に、モンスターの人形が飛んできて、膝の上に落ちた。


「それ」


 パズンがその人形を指差して笑う。


「その人形、ゲームの世界から出てきて団長に出会いましたよ」


「お前......」


 モンスターイベントがゲームの中の駒なら、ゲームを壊せばここから出られるというのか。

 それは本当に可能なのか?

 世界を修正するものがいるなか、その目をかいくぐり、世界のボードをひっくり返すというのか。


「大丈夫です。団長、オイラ達は無限に繰り返せる。誰にも見つからないよう世界を少しずつ壊していけばいい」


 完全なる記憶を持つ者がすべてを忘れずに何度も何度も永遠にループする。


 俺はもしかしてとんでもない事をしてしまったのか。


 再びあの四月七日が近づいてきていた。

 もうすぐ、また神がやってくる。



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