第30話 終わりの始まり

 

 土煙の中に赤と黒の全身機械カムイが立っていた。目の前の異形リザードマンを見下ろしている。


「ぐっ」 「やられた」 「失態だ」


 異形リザードマンの胴体がちぎれて上半身と下半身が分断されていた。


 地面に落ちた上半身から無数の糸のようなものがでて、下半身に繋がる。

 カムイが再びそれを切断しようとする。

 だがその前に無数の剣がカムイに降り注ぐ。

 ぼんっ、とカムイの足元が爆発して土煙が舞う。

 ジェット噴射。

 足元から炎がでて、一瞬でその場から後退し、無数の剣が地面に突き刺さった。


「強い」 「強いぞ」 「本気でいくぞ」


 糸に引っ張られ、下半身の上に上半身が乗り、異形リザードマンの胴体があっさりと再生される。


「カムイっ、頭三つ、同時攻撃だっ」


 背後から声がかかる。

 ルカの声? いや違う。


「アリスっっっっ!」


 ルカが歓喜の声を上げる。

 アリスの横にナナがいる。

 回復が間に合ったのか。

 串刺し状態だったアリスが復活している。


「ルカ、いけるか」


「うんっ、うんっ」


 泣きながらルカが答える。


 カムイ、アリス、ルカの三人が異形リザードマンを囲む。


「ハジメ、こっちに!」


 アイに引っ張られてナナの近くに行く。


「はぁはぁはぁ」


 ナナの疲労感が酷い。

 アリスを治すのに体力を使い果たしたようだ。


「ご、ごめんなさい、少し、待って、ください」


 ナナは自分も治そうとする。


「大丈夫、大した傷じゃない」


 異形リザードマンの方を見る。

 カムイの動きが凄まじい。

 ほとんど瞬間移動するような動きで異形リザードマンを翻弄ほんろうしている。


「カムイ、どこにいたんだ?」


「たぶん、最初からここにいたと思う。スキルよ、光学迷彩スキル。カメレオンのように背景に溶け込み透明になれるスキル」


 自分のスキルと似ている。いや、上位互換か。


「彼のスタイルよ、仲間が何人死のうが関係ない。隠れて敵を分析して確実に倒せると判断してから戦うの」


 確実に倒せると判断してから?

 しかし、今の出現はまるで俺を助けるために出てきたようだった。


「右か」 「左だ」 「違う、上だっ!」


 異形リザードマンがカムイの動きについていけてない。


 カムイのサーベルが異形リザードマンの腕を切断していく。

 六本の腕がもう二本しかない。

 再生が追いついていない。


「ハイドっ」


 ルカがハイドに命じて千切れたリザードマンの腕を持って来させる。

 それを壁に投げて、弓で居抜き固定する。

 ヒロシの顔の横に四本の腕が並ぶ。


「「「人間どもっ!!」」」


 異形リザードマンが部屋の剣を一斉に放とうとすべてを空中に上げる。

 だが、その前にアリスが背後に回り、巨大化した剣で三本の尻尾を同時に叩き落とした。


「ぎっ」 「がっ」 「ぐっ」


 空中に浮いていた剣がそのまま勢いなくバラバラと落下していく。

 異形リザードマンが転倒している。

 さらにカムイが残った二本の腕を切断する。


「決まりやな」


 キョウヤの言う通りだった。


「右は私、左はルカ、カムイ、真ん中を頼む!」


「ふざ」 「ける」 「なっ」


 ルカの弓が左の頭に突き刺さり。

 アリスの剣が右の頭を叩き潰し。

 カムイのサーベルが真ん中の首を跳ね飛ばした。


 すべての頭を失った異形リザードマン。

 その身体がぶくぶくと膨れ上がる。


「弾ける、引くぞ」


 カムイがアリスを脇に抱えて後ろに飛ぶ。

 同時に異形リザードマンの残った身体が爆発した。


「きゃあ」


 破片のように肉塊が飛んでくる。


「危ない、ナナちゃん」


 キョウヤが身体を張ってナナをかばう。

 俺はアイに覆いかぶさり、肉塊を防いだ。

 身体のあちこちに細かい肉塊が食い込む。

 だが耐えられないダメージではない。


「あ、ありがとう、ハジメ」


「あ、ありがとうございます、キョウヤさん」


 異形リザードマンは跡形もなく吹き飛んだ。

 これで終わったのか?


『メインミッション リザードマンロードの討伐が完了しました』


 頭にアナウンスが流れる。


『ミッションコンプリート。すべてのミッションが完了しました』


「や、やった。終わりましたよ、ハジメさん」


 ナナが手を握ってくる。


「良かったです。みんな生き残って、本当に良かったです」


 まあ、ヒロシは惨殺されたが良しとしよう。

 あれだけの強敵に、こちらのパーティーの犠牲がなかっただけでも奇跡的だ。


「ああ、良かった。本当に」


 ナナの頭を撫でる。


『WARNING! WARNING!』


 それは突然のことだった。

 頭に鳴り響くサイレンのような警告音。


『緊急ミッションを開始します!WARNING!』


 どこから来たのか。

 ずっとそこに居たのか。

 ナナの背後に男が立っていた。


 色の黒い男。

 鋭い目が赤く光っている。

 髪は真っ白だ。

 背は自分と同じくらいか。

 一見、ただの人間のように見える。

 だが所々におかしな箇所がある。

 頭に牛のような黒い角が左右対象に生えている。

 背中に巨大な黒い翼があり、異様に大きい手には鋭く尖った爪が伸びていた。

 鉄製の鎧をつけているが、うろこに覆われた人間のものでない肌が見えていた。


「力を与えたが、所詮ただのトカゲか」


 男が異形リザードマンの残骸ざんがいを見て呟く。

 なんだ、この男は。

 息をするのも苦しくなるような威圧感。


「あ、あのどちら様ですか?」


 ナナが話しかけた瞬間、ハエを払うように男は軽く腕を動かした。


 とん、とん、とん、と目の前を丸い物体が転がる。

 それがナナの頭だと理解するまで時間がかかった。


 さっきまで笑っていたナナ。

 首の無い、着物を着た胴体から血が噴水のように噴き出した。


「人間ごときが余に話しかけるな」


 手についた血を払う。

 それが俺の顔、右目のあたりに飛んでくる。

 壊れた人形のように、首のないナナの胴体が倒れた。


 目の前が真っ赤に染まり、言葉にならない声を上げた。


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