第11話 11

「心臓だと? 私はおまえの心臓をとった覚えはないが?」

「返せ! 返せ! 私の心臓を返せ!」


少し知性がなかったのか、魔王の口は自由に言葉が話せないようだった。カトリーヌ・ねこぴょん様には何のことだか分からない。


「語り合う口を持たぬのであれば消えてもらうしかないな。」

「返せ! 返せ! 私の心臓を返せ!」


カトリーヌ・ねこぴょん様は魔法剣に風の魔法を詠唱し蓄えていく。魔王の口はカトリーヌ・ねこぴょん様に襲いかかってくる。


「返せ! 返せ! 私の心臓を返せ!」

「疾風に切り裂かれるがいい! ブラスト!」


一瞬だった。魔王の口は悲鳴をあげる間もなく、カトリーヌ・ねこぴょん様の魔法剣から放たれた、とてつもない風に切り裂かれ、跡形も残らなかった。


「口なのに、口ほどにもない。」


カトリーヌ・ねこぴょん様は、魔王の口を相手にしても絶対の強さを誇っていた。戦いに勝利したカトリーヌ・ねこぴょん様は夕日に染まっていた。


「ふう~。良かった。何もしゃべる前にカトリーヌ・ねこぴょん様が倒してくれた。」

「私なんか、どうなるかとヒヤヒヤしたものだ。」

「口はあっても話せる知能が無いのでは仕方がない。」

「その通り。私たちは奴隷犬、奴隷ミジンコと言われても、知能はある。自分は自分を保てている。」

「名称など、ただのお飾りさ。」

「そうだな。呼びたい奴に呼ばしておけばいい。」

「なんたって、俺たちは・・・。」

「ワンワン! キャンキャン! どこ行った!?」


その時、奴隷犬の飼い主ありぴょんが、俺とくまぴょんを探しに来た。


「おっと、俺たちは散歩の途中だった。」

「飼い主様が呼んでいる。帰るとするか?」

「おまえには負けないぞ!」

「望むところだ!」

「夕飯は俺の物だ!」

「おまえの分まで食べてやる!」

「ワンワン!」

「キャンキャン!」


野原をかけていく俺とくまぴょんにプライドなどなかった。プライドなどというもの価値は、夕ご飯に比べれば意味の無い物だった。


「お!? おまえたちどこに行っていたんだ? 心配したんだぞ?」

「ワンワン!」

「キャンキャン!」

「よしよし、いい子たちだ。さあ、一緒に帰ろう。美味しいご飯が待ってるぞ。」

「ワン!」

「キャン!」

「あ、でも勝手な行動をして、私を煩わせたので、ご飯は半分な。」

「ワンワン!?」

「キャンキャン!?」

「自業自得だよ。さあ、帰るぞ。」

「ワン!」

「キャン!」


俺たちは、まるで仲良しのように町に帰って行った。飼い主と犬二匹。なんて心温まる風景だろう。


「なんだ? あの姿は!? うさぴょん。くまぴょん。僕のいない間に何があったというのだ!?」


そこに新しい一人の少年が現れた。うさぴょんとくまぴょんのことを知っているみたいだ。


「あの飼い主気取りの女を殺してもいい。女魔王はやはり再生を始めていたか。まさか口だけ飛んで来るとは・・・恐ろしい。そして何より恐ろしいのは、あの女魔法剣士だ。空を飛び、魔王のパーツを一撃で破壊する攻撃力・・・侮れない。たぶん、うさぴょんにサイコロを振らせ、くまぴょんが良い目が出るように祈らされているのだろう。もう少し様子を見るか。」


謎の男の正体は・・・。



「カトリーヌ・ねこぴょん様! 万歳!」

「英雄の御帰還だ!」

「ねこぴょん! ねこぴょん! ねこぴょん!」

「カッコイイ!」

「素敵!」

「俺も将来、カトリーヌ・ねこぴょん様親衛隊に入るんだ!」


町は魔王の口を倒したカトリーヌ・ねこぴょん様の凱旋パレードが行われていた。町の人々が一目カトリーヌ・ねこぴょん様を見ようと集まってきていたのであった。カトリーヌ・ねこぴょん様は目を輝かせた子供たち、人々の憧れだった。


「いや~。まるで俺たちが歓迎されているみたいだ。気持ちいい!」

「これも奴隷犬をやっていたおかげだな。ワッハッハー!」


俺とくまぴょんは奴隷犬として、ちゃっかりカトリーヌ・ねこぴょん様の前を歩いていた。意気揚々と高揚し、この時ばかりは奴隷犬でも悪い気はしなかった。


「こら! 静かにしなさい! おまえたちは奴隷犬なんだからな!」

「おまえが黙れよ。」

「え!?」

「浮かれやがって。アリの分際で。」

「な!? ・・・はい。」


俺とくまぴょんは少し本気を出した。といっても、少しありぴょんを睨んだだけなのだが、少し次元が歪んだらしい。ありぴょんが完全にビビってしまった。


「ワンワン。」

「キャンキャン。」

「な・・・なんだったんだ!? 今のは!? こうして見ると、ただの奴隷犬・・・。でも、さっきのは・・・なんだったんだ!?」

「今日のご飯は何かな?」

「コロコロステーキ入りのペットフードじゃないか?」

「そんなもんあるかよ!?」

「私にサイコロを振らせてみろ。想像してやるよ。新メニューって奴を。」

「ハハハハハ。」

「分からん。私は何にビビったんだ!? やっぱりこいつらはただの奴隷犬だ。何も私が臆することは無い。そうだ。私はこいつらの飼い主なんだからな。」


ありぴょんに疑念が生じ始めた。上手く言葉では言い表せないのだが、ペットの奴隷犬である俺とくまぴょんを警戒するような目線で見るようになった。これがアリの本能だろうか。


つづく。

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