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 正直ホラー映画を観ながら食事をするなんて言語道断だと思っていたけど意外と食べられたりするもんだ。それはこの店の料理が美味いからか、自分の食欲が旺盛なのか正確には分からないけど。自宅でそう言ったシチュエーションにはならないから。

「最初はやっぱり葛藤しましたけどね、苦情が来るんじゃないかって」

「苦情、来ませんでしたか?」

 そう返すとオーナーはちょっと苦い顔をしてお釣りを手渡してくれた。

「もちろん来ましたよ。食事中になんてものを見せるんだって。知らずに入って来たお客様に怒られたりして」

 だろうね。俺でも知らずには行って来ていたら飛び出して帰ったに違いない。

「だからやめようと思った時期もあったんですけど、喜んでくださるお客様が少しずつ増えて来て。今ではそれが名物にもなっていますし、僕も楽しいし、やってよかったです」

 そうオーナーは本当に楽しそうに言う。俺よりも随分と年上だけど笑った顔は少年のようだった。

「けれど映画を店で流すのって結構お金が掛かるって聞きましたけど」

「おや、お兄さん結構知っている人ですね?」

「まぁ・・・」

 やっているのはカフェじゃなくてバーだけどね。俺も独立する時にカジュアルなバーにするなら映画を流したいなって思って調べていたし。

「確かにそれなりに費用も掛かりますけど、何より映画が好きですから。ここで流しているのは古いものばかりだけど、映画に興味を持って映画館へ足を運ぶような人が増えたら素敵じゃないですか。もしその足がかりになれたら僕はそれだけで幸せです」

 そう素敵な笑顔を浮かべて言う。俺も同じ映画好きだなんてやっぱり恐れ多くて言えないな。

「ふふ、それにこうやってお兄さんとも出会えたじゃないですか。それだけでも店をして良かったなって思いますよ」

「ふふ、ありがとうございます」

「どうしてお兄さんがお礼を言うの。それはこっちのセリフですよ」

 なんてそんなセリフのような言い回しでオーナーは言う。まるで映画のワンシーンのように。

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