幕間 またいつかコーヒーブレイクを
「そういえば最近、緋色ちゃんと如月さん、あんまり来ませんね」
閉店後の店内でモップがけをしながら、宇佐美はふと思い出したかのように言う。
「仕事や学校の方が忙しいんだろう。元気にやってくれているのなら、それで構わないさ」
カップを磨きながらマスターはそう答えるが、宇佐美は少々不満そうに言い返す。
「駄目ですよー、二人が来てくれないと寂しいっていうか、花が足りないっていうか」
「だったら何時来店してもいいように、しっかりと掃除しなさい」
マスターの方は作業が終わったのかエプロンを外してカウンター裏にある椅子に腰かけて携帯でニュースを見始めた。
「ちょ、もう終わったんですか?」
「宇佐美君が遅すぎるんだ。・・・・・・ほう」
宇佐美には目もくれず、国際欄の記事を読んでいると、何かに感心して声を漏らしていた。
「ん、どうしたんですか?何か面白いニュースでもあったんですか?」
「日本の企業が南アフリカの方で食糧問題解決の為に尽力しているのだと。彼も中々頑張ってるみたいだね」
「へぇー、アフリカですか。そういえば徐々に経済的に安定してきましたよね。ん?」
とそこまで言って宇佐美は一つの疑問に気がついた。
「彼って誰の事ですか?そんな有名な人か誰かが関わってるんですか?」
「それは後で、自分で調べなさい。それよりも手」
「は、はい、わっせわっせ!うわ、もうこんな時間!」
大急ぎで掃除を再開し、店内隈なく駆け回る宇佐美をそのままに、マスターは記事を読み進めていった。
『西暦2025年×月○日
片平グリーンハーベスト社(以下、片平GH社)を中心として行われている農業支援プロジェクトは遂に最初の収穫期を迎えた。
南アフリカ初の半無人農地は、それまでの有人農地と比べると、収穫量を維持しながら生産コストを三分の一まで抑える事ができると試算されている。今回の収穫によって得られた利益の結果次第で、近隣諸国も無人農地の本格的な導入に踏み切る事も検討されている。
そうなれば将来的には先進国と同レベルの保護制度を導入する事も可能になるのではと、大きな期待が寄せられている。
しかし雇用を奪われた現地民からの反発もあり、反政府運動の機運も高まりつつある。そんな中、片平GH社の
「彼もまた、自分に誇りが持てる仕事を見つけられたようだな」
マスターはこれからもこの街でコーヒーを入れ続ける。
お客様のまたのご来店を待ちながら。
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