幕間 「彼」の事情≠「彼ら」の事情
「さて青柳さんの採否についてですが、どうなされますか」
「そうだねー。正直どうしようか迷うかな」
先日行われた総士の面接の結果を検討する為に、社長と如月はファイル等を見直しながら最終的な結論を出そうとしていた。
「私は正直、うちでやっていくのは難しいかと思います」
「君もそう思うかね。いや基本的には悪くない人材だとは思うんだがね。しかしどうしても雇いたいかと聞かれると、私も正直決め手に欠けるんだよ」
煙草に火を付けながら社長は総士の描いた絵をスクロールさせながら言う。
「物の価値が分からない訳では無いだろうが、芸術を理解できるかどうかと問われると怪しいな」
「単純な画力なら私も同レベルかと」
「お前さんは昔から美術史に造詣が深いだろうが。彼の場合は元から興味があるようには思えない。いや、そもそも彼には興味があることがあるだろうか?」
そんな所まで分かる訳が無いと如月は首を横に振った。
「なんとも言えないわね」
「少なくとも芸術に対する熱意や拘りというものを、あまり感じさせられなかったんだよ」
「まぁ、確かに絵とかを見ても、どちらかというと悲観的な印象を受けましたね」
社長は頷きながら如月の意見に頷き、結論を出す。
「うむ、やはり不採用だな」
「不採用ですか?」
「そうだ。彼、表面上はまともそうだが、その内側には歪なモノを抱えてると見た。正直、癖が強いのは作家人だけで十分だ。事務方にまで奇人変人を入れていたらワシの胃に穴が空く」
胃に手を当てながら社長は戦々恐々だと言いたげに、如月の方を見る。
「・・・・・・なんですか、その目は?まるで私を変人みたいに」
「いいや、可愛い姪を変人だと思った事は一度もないよ」
「へぇー・・・・・・あ、そういえばこの間緋色がこの間、面白い話をしてくれたのですが」
「おや、青柳君の事かね?」
「いいえ、私の事について」
「?」
「なんでも伯父様から私の美術の成績の話を聞いたって」
その話題を出された瞬間、社長の顔は一気に青ざめていく。
その後、姪っ子にたっぷり嫌味をグチグチ言われて、疲れきった顔をしながら不採用通知を拵えるのであった。
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