第30話ダンジョンには夢がある01
「は~。色々あるんですね」
クロウは矯めつ眇めつ……に引っかかる程度に丁寧にクエストを書かれた掲示板を見やる。
ダンジョンにクエスト、ギルドに傭兵。
それらについてはあまり明るくない。
人生の大部分を貴族の家と山で過ごしたため、その辺は疎くなって当然だ。
ダンジョンについてはある程度説明は為されている。
アイナの講義である。
ギルドや貴族が管理しており、クエストを受注して仕事をこなしたり、自身に必要な素材を発掘するために独自に潜る人間も珍しくはない。
今回に関してはクエストを受注することになった。
発端はアイナの一言だ。
「ダンジョンに行こうと思います」
「……はあ」
「…………」
不意を突かれたため、クロウとローズはポカンとした。
「だからダンジョン。研究室で攻略しましょうクロウ様」
「小生は研究室に所属していないのですが……」
クロウの立場はあくまで使用人であって、学院そのものには在籍していない。
個人契約のような物だ。
学院長シャッハマットとしても、
「人材を確保できるなら」
と苦肉の策でクロウを雇っているに過ぎず、そうであればクロウの戦力を当てにしているという逆説的な論理の構築だろう。
「ダンジョン。クロウ様も潜りたがっていたでしょう?」
「ではありますけど……」
つまるところ失念していたらしい。
茶の淹れ方と剣の術理ばかり上手くなっているクロウであった。
そういう意味では、
「何をしていたのだろう?」
との疑念もあるが、
「これからソレを果たせるらしい」
と思えば心も弾むという物だ。
閑話休題。
そんなわけでアイナ研究室はクエストを受注するためギルドに来ていた。
「下一桁が一の階層は……休憩フロアと地上避難手段の……兼ね合いです……」
「えーと?」
「一階層……十一階層……二十一階層……。そんな順序の……モンスターの現われない安全なフロアと呼べます……。それから転移魔術で地上に……避難できる造りになっています……。例外もありますけど……」
「つまり深く潜っても、帰りたいときに折り返してダンジョンを上る必要は無いと?」
「です……。常々例外はありますけど……」
そう言ってローズはミルクを飲んだ。
クロウたちの居るギルドは酒場を兼任しているため、飲み物の注文も出来る。
ついでに言えばアイナが居るため無下にも出来ないのが現状だ。
こと魔術の才幹に於いてアイナほどのソレも無かろう。
そう考えると何故に拉致られたのか疑念も尽きないが、ここでは無益なので語らない。
「やっほです」
ルンと弾んだ声でアイナが戻ってきた。
カウンターで雑事を済ませてクエストを受けてきたらしい。
「どんなクエストでしょう?」
クロウとしては興味を引かれる。
「感応石の採取。リンボで取れるからそこに潜ります」
「はあ。いいのですけど」
「…………」
クロウはポヤッと首肯したが、ローズは半眼でアイナを睨んだ。
イヤリングの形をした感応石の起動。
「正気ですか……」
クロウにも聞こえる辺り配慮はしているらしい。
「何か問題でもありましたか?」
飄々とアイナ。
もちろんこっちも念話だ。
「懸念があるのですかローズ?」
クロウにしてみれば分からずとも同然だ。
「ダンジョンにも……格がありまして……」
「はあ」
「リンボは最上級です」
「難解なほど挑戦しがいがあるのでは?」
素で言うクロウ。
「怪我をしたり死んだりしたらどうしよう?」
そう言った問題視をクロウはハナから持っていない。
これはダンジョンに対する不理解から来る物で、どちらかと云えばローズの懸念に正当性はある。
「大丈夫です。クロウ様が居れば何とかなります故」
「えーと……お兄ちゃん……?」
「どの程度かにもよりますけど」
クロウは紅茶を飲みながら淡々と。
そこに、
「アリアレス卿」
と声が掛かった。クロウの知らない固有名詞だが、
「何でしょう?」
とアイナが応答した事で二つ名の類だろう事は把握する。
「よりにもよってリンボに潜る気か?」
巌のような男である。
傷痕は戦いの誉であって、なお体の造りは中々のもの。
「誰でしょう?」
と念話でアイナに問いかける。
「傭兵ですね」
「えーと……」
「問題を暴力で解決して報酬を貰う職業ですね」
そう聞くと碌でもないかも知れないが、クロウは特に問題視しなかった。
と云うより前世の自分の罪状を詳らかにすれば他者の事を言えない。
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