第28話争えないのは血か業か09


 クロウたちはアイナと合流した。


 アイナはぐったりとしていて、それ故に、


「徒労に終わったのでしょう」


 ことはクロウたちも覚れる。


「あうぅ……」


 顔を真っ赤にしてるのはローズ。


「いい加減慣れてはどうでしょう?」


 クロウはアイナと等しくサクッと衣服を脱いで、身を清め、風呂に浸かった。


「あうぅ……」


 クロウとアイナの混浴。


 そこにローズが割って入らないのも嘘ではあるが、それでも乙女特有の恥じらいは持っているらしい。


 クロウとしては(記憶の上では)女性経験があるため今更女子の裸を見たとて興奮のしようもないが。


「お兄ちゃんは……恥ずかしくないの……?」


「身体年齢で言えばまだ未熟です故」


 そういう問題でも無かろうが。


「では失礼します……」


 身を清めたローズが入浴する。


「ふにゃー……」


 三者三様に風呂の魔力に取り憑かれ、ひと時。


「ところで絡まれた生徒はどうしたのですか?」


 アイナが会話のボールを投げる。


「放置です」


 明後日に投げ返すクロウだった。


「まぁわからないわけじゃないですけど……」


 クロウが他者より上回ることに忌避感を覚えるのはアイナも知っている。


 ローズも察しているだろう。


 その根幹については説明する気にもならないが。


「ぶっちゃけた事を言って……勝てますか?」


「今日見せた兄様たちの実力がアレで全部なら」


 もちろん全部だ。


「じゃあなんで……逃げたの……?」


「ですから」


 と言葉を繰り返す。


「勿体ないよ……」


「あまり損得で動いてもしょうがないでしょう」


「お兄ちゃんは……強くあるべき……」


「ある程度強くはあるのですけど……」


「兄たちより」


「難しい相談です」


 チャプンと肩まで浸かるクロウだった。


「褒められたくないの?」


「誰かのために生きられれば小生はそれで十分ですので」


 人のために。


 誰かのために。


 決して自分のために剣を振るわない。


 その様に生き、死んで、初めてクロウの贖罪は完結する。


 転生者。


 その最もたる前世の呪縛は怨嗟と悲吼によって彩られている。


「クロウ様は不器用ですね」


「生憎と他の生き方も知りませんし」


 その通りではある。


「ところで……」


 とこれは愛妹。


「兄さんは何で……感応石を買ったんですか……?」


「ん? 感応石を買ったのですか?」


 アイナも食いついた。


「ええ。まぁ」


 控えめな首肯。


「何故に?」


「不公平を正すためです」


「?」


「?」


 アイナとローズは首を傾げた。


 後日説明しようとクロウはソレを放置する。


「それにしても」


 とローズの裸体を眺めやる。


「中々育ちませんね」


 苦笑。


「あうぅ……」


 真っ赤になるローズ。


 無論おっぱいの事だ。


 どうやら才能としては魔術に偏ってしまったらしい。


 ローズは年頃の乙女としては少し残念だった。


 アイナと比べればまだマシではあるが、そもそもアイナは合法ロリだ。


「お兄ちゃんは……」


「はいはい」


「おっぱい有った方が良い……?」


「特に気にしませんけど」


「本当に……?」


「それはもう」


「じゃあ抱いてくれる……?」


「無理です」


「むぅ」


 顔を赤くして拗ねる。


 無理なからぬが。


「好きな人とか……いるの……?」


「います」


 即答。


「いる……の……?」


「います」


 淡々とクロウは繰り返した。


「教授……?」


「違います」


「みゃー」


 アイナが半眼でクロウを睨んだが何処吹く風だ。


「誰でしょう……?」


「先生です」


「先生……?」


 それだけで正解に辿り着けるなら読心術の使い手だ。


「えと……」


 ローズはアイナに視線を振った。


 紅と碧が交錯する。


「鬼ヶ山の山の主」


「オーガ……?」


「です」


 コックリと頷く。


「もしかして……男性ですか……」


「はい」


 ぬけぬけと嘘をついた。


 実際はボンキュッボンの美女だ。


「ポッ……」


 赤く染まるローズの頬。


 何やら上気しているらしい。


 腐っているとも言う。


「素敵な方ですよ」


 クロウのそんな言葉はローズの腐食部分に刺激を与えるだけだった。

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