第26話争えないのは血か業か07


 兄たちも魔術師である。


 当然、火の属性。


 であれば街中で暴れるのを良しとせず、訓練場を借りた。


 学院のソレだ。


 しぶしぶ付いていくクロウ。


「え? アーロンとブレットと決闘ですか?」


 これはアイナの思念。


「どうしたものでしょう」


 困惑するクロウ。


 アーロンとブレットは兄である二人の名だ。


 アーロンが長男でブレットが次男。


 ちなみにクロウが三男だ。


「勝てば宜しいのでは?」


「無理です」


「可不可なら可能でしょう」


「能力的な意味ではありません」


『兄を蔑ろにする』


 そのためにクロウは前世で大失敗をやらかしている。


 兄の面目を保つことはある種の精神に根ざした症状の一種だ。


「もしかしてアイナの篩い分けにも参加していましたか?」


「ええ、落としましたけど……」


「…………」


 チラリとローズを見やった。


「?」


 黒と紅の視線が交錯して、後者が首を傾げる。


「妹に負けた……と」


「そういうことですね」


 念話越しに苦笑が透けて見えた。


「どんな魔術を披露されました?」


「ええと――」


 色々と伺う。


 兄たちの方は鷹であるローズと違って鳶であったらしい。


「魔術は一人につき一つ」


 そんな観念に当てはめられた、と。


 別に珍しい話ではない。


 クロウやアイナ……あるいはローズが規格外なだけであってどちらかと云えば兄たちの方が常識だ。


 なおクロウが転生者でアイナがエルフであるから、実質的に人類の範疇で異彩を放っているのはローズのみ……そういう結論は真っ当ではないにしても的外れでもない。


「さて、ここでいいか?」


 小さな訓練場。


 とはいえあくまで学院の訓練場における相対性であって、それなりの広さは確保されている。


 チラホラ魔術の訓練をしている生徒も見かけるが、まぁ魔術を行使するという意味では今からクロウと兄たちの決闘もその一種だろう。


「どうしたものでしょう?」


「始めるのですか?」


 アイナの念話。


「ええ、穏便に負ける方法を探しています。アイデア募集」


「何で其処まで怯えてるのでしょう?」


 因果な渡世故……とは言えない。


「あまりプライドの高い御方に逆らって得する事がありませんし」


「殺しても免責の都合くらい付けますが?」


「ありがとうございます」


 感謝の心はこれっぽっちも含有されていない。


「仕方ない」


 ポニーテールを揺らしてクロウは片足で地面を蹴った。


「始めるぞ」


 兄の一人……アーロンが呪文を唱える。


「我は火を念じて形と為す。フレイムクロス」


 魔術の顕現。


 炎がまるで布を放って被せるように広がってクロウを襲う。


「なんですかねぇ」


 アーロンの魔術については存じていたのでクロウは宙を蹴って上空に避難する。


 地面では広がった炎がいとも容易く収束していた。


(集中力が足りませんね)


 無論言葉で述べればプライドを刺激するため論評は心の中。


「降りてこい! 卑怯者!」


「そうは言われましても……」


 困惑。


 仕方ない。


 アーロンの魔術は炎を広範囲に広げて攻撃するソレだが、あくまで地面有りきだ。


 想像限界イメージリミッターとアイナは言っていた。


 結果、高所を取るだけでアーロンの魔術は無力化できる。

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