第23話争えないのは血か業か04


 ヴィスコンティは火の魔術を象徴とする。


 それ故炎を繰る以外に魔術を現象化できない。


 これは別に蔑視されることではないが、ある種の限界には違いない。


「ローズは天才ですね」


「お兄ちゃんに……言われたくない……」


「小生の魔術は不器用です故」


 肩をすくめるクロウだった。


 そして感応石を売っている店の暖簾を潜る。


 色々とダンジョンから発掘された掘り出し物を揃えてある。


「あの……」


 とローズ。


「感応石が欲しいのですけど……」


「――――」


 店員は良心的な値段を口にした。


 一般人には届かない領域ではあるが、ローズは片手間に買える値段だったらしい。


 そういう客にこそ誠意を見せて信頼を得るのが商売の基本則だ。


 結果、感応石を四つ買う。


 二つはローズが買って、もう二つはクロウが買った。


「何故……?」


 とローズ。


「面倒だから」


 とクロウ。


「……?」


 ローズには意味不明だ。


「まぁいいでしょう?」


 自腹で買っているのだから問題は無い。


「うーがー」


 と念話でアイナが吠えていたが、まぁ無視が無難だろう。


「では帰りますか?」


 そう言うと、


「お茶しませんか?」


 とローズが提案する。


「良心的です」


 クロウは苦笑した。


 そんなわけで二人は喫茶店に入る。


 クロウとしては山暮らしが基本則であったため、作法はともあれ慣れが追いつかないのだが、特にあげつらうでも無い。


 二人してチョコレートとクッキーを頼んで茶の時間。


「えへへ……」


 とローズ。


「お兄ちゃん……」


 そこには兄を慕う妹の意志があった。


「悪趣味ですね」


 とはクロウの言。


「お兄ちゃんは格好良いよ……?」


「恐悦至極」


 チョコを飲む。


「けれど兄は他にもいるでしょう?」


「兄たちは……権威主義ですから……」


 少し寂しそうなローズの言だった。


 クロウも分かってはいる。


 基本的にローズは無条件に甘えられる相手を探している。


 それがクロウであってお兄ちゃんであるのだ。


 貴族のメンツを何より大事にするヴィスコンティの兄たちは対象外だろう。


「虐められたりはしていない?」


「嫉妬はあるだろうけど……表面上は……」


「なら良かった」


 ローズがいびられているとなればクロウとしても穏健ではいられない。


「お兄ちゃんは……ローズじゃ足りないですか……?」


『何が?』


 そう問いたかったがクロウは止めておいた。


「まぁローズの気持ちも分かりますよ」


 無難な回答。


「本当に……?」


 疑惑。


 無理なからぬ。


「ローズは小生のヴィスコンティ家に於ける立場を確保するために魔術を研鑽および修練したのでしょう?」


「です……」


「けれどそんなことは不要です」


 チョコを飲んでクロウは言った。


「小生を気にせずローズは自分のために覇業を為すべきですよ」


 果たしてクロウは何を思っているか?


 ローズの思念の埒外ではある。


「お兄ちゃんは……」


 チョコを飲んでローズは問う。


「ヴィスコンティ家には……帰ってこないのですか……?」


「今のところ予定にはありませんね」


「何故……?」


 ローズの表情に影が差す。


「ローズが……悪いの……?」


「違います」


 それは明確だ。


「小生には想い人が居ます故」


 帰るなら想い人の胸の中。


 そうクロウは語るのだった。


 無論オリジンについては口の端にも上らせないが。


「あう……」


 言葉を失するローズ。

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