砂漠の、割と最低の飲み会
その日、砂漠の飛行基地、その外れにある酒場では、二人のテストパイロットが酒をたらふく呑んで前後不覚という有様でした。
それというのもタキシングだけのつもりが初飛行、さらにドラゴンをチェイサーにしてロケットブースター全開をやらかして基地司令に大目玉と罰として三日の飛行禁止が申し渡されたからでした。
もっとも、とりなした飛行隊長によると、こんなものは罰の内に入らん、機体の調査と整備にはそれくらいかかるとのことであり、剣幕の割には記録にも残らないような怒られ方ではありました。
--なんで俺まで怒られてるんだよ!
先ほどまで机に突っ伏していたパイロットのシノノメが、急に起き上がって喚き出しました。
黙って酒を飲んでいたカズヒサが、酒を注ぐと、分かってるじゃないかと言う顔をして飲み干し、またぶっ倒れました。
カズヒサは自分も杯に酒を注ぐと、飲み干して虚空を眺めました。人魚がいた、遠い昔を思い出すように。
--お前さ、結婚、してんだろ。
目だけをカズヒサに向けて、突っ伏したシノノメは言いました。
カズヒサは目をさまよわせた後、ため息をつきました。
--ええ、まあ。一応。
--いーなー!!
--本音漏れすぎですよ。
--漏れてねえ、思ったことを正直に言っているだけだ。
--それが漏れてると……
--なんで可愛い奥さんいるのに酒呑んでんだよお前ー!
--誰かにおごれ、皆お前のせいだと言われたせいですよ。
シノノメはカズヒサの言葉を完全に無視して天井を仰ぎました。
--くそ、こんな性格が悪い奴でも大学いって、美人の嫁さんまで、しかも翼人だって!
--翼人って嫌われてません?
--飛行機乗りにとっては幸運の象徴だろうが、あんなもん翼生えてないやつのやっかみだ、やっかみ。
シノノメはそういって、また倒れました。
--結婚してー!
店員のお姉さんがうんざりした顔で、出て行けと顎で店の外を指しました。カズヒサは苦笑浮かべて金を置くと、シノノメの肩を抱いて歩き出しました。
--結婚なんて、そんなに良い物じゃないですよ。
--そういうのは結婚しているから言えるんだよ、ええ?
--そりゃそうだと思いますけどね。
カズヒサは苦笑しながら、寮に向かって歩き出します。足取りは一人肩を貸しているから、だけではなく重く、彼は新妻を思って、首をかすかに振りました。
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