第13話



「へー。それで姫さん模擬戦見学に来るんですね」

「まったく。殿下には困ったものだ。」



団長室でランスロットは筆を走らせながらため息をついた。その隣では副師団長のロイがランスロットが記入した書類に不備があるか、確認作業を行なっている。口を動かしつつ手は休めない。流石と言ってもいい動きだ。



「ほんとにあの人は師団長で遊ぶのが好きですね」

「俺を日々のストレスのはけ口にしないでもらいたい」



そうは言うものの、バルサルトのストレスについては同情はある。彼は次期国王である。周りからの期待、重圧、妬み、裏切り、色々な事を一身に受け止め流さないとならない。20代という若さでそのしんどさは計り知れない。

しかし、その中でも現在バルサルトが統率している実力社会の騎士団は彼にとって救いだった。ここにはバルサルトと同年代の者もいる。そして家名を継がない次男以下の物や庶民の出が多いため腹の探り合いが殆どないのだ。王族という肩書きに慄く物もいるが大半の人間は「バルサルト」という人物を見る。居心地がいいといつか漏らしていたのも記憶に残っている。だからこそランスロットは出来るだけこの場が彼にとって休まる場所である日が長くあればとも思っているのだが。



「ったくエレーナも巻き込みやがって」


ランスロットの指圧で筆がボキリと嫌な音をたてた。「あーあ」とロイが可笑しそうに笑いながら近くにあった新しい筆をランスロットに渡す。




「現王がバルサルト殿下に対して正式な継承の儀を行うと伺っています。そうなると王政に本格的に参加されて騎士団総括も出来なくなるでしょう」

「....最後の悪あがき、か」


そう。これは悪あがきなのだ。自分バルサルトがここにいたという証明。自分の自由がここにあったと子どもっぽい行動だ。それでもやらずにはいられないのだろう。



「そういえば。その模擬戦ですが、隣国の騎士団と共同訓練になるという話がありますね」


ロイの言葉で、ランスロットは感傷に浸っていた頭を引き戻した。そういえば先週くらいにそんな話を団長会議でされた気がする。



「3年前に親善国になったナカルタ王国が交渉してきたらしい。あそこの国はまだまだ小国な上、隣国は未だにあの地を手中に収めようとしている。」


ナカルタ王国は資源が豊富で、どの国でも喉から手が出るほど欲しい物だ。シフォニア国は大国であり平和主義。ナカルタ王国が自由に動けるようにと後ろ盾に名乗り出たのが6年前。そして3年かけて親善国として成立した。何かあればシフォニア国が黙っていないぞという威嚇はこの3年でナカルタ王国の安全と信頼を築いてきたのだ。


「我がシフォニア国と共同訓練や親善試合をする事で、技術の進歩向上と隣国への牽制って所ですかね」

「大方そのよう理由だろうな」


他にも、王族が数人来るだとか、ナカルタ人の騎士団体験入隊など色々言われているがそれを考えるのはもう少し経ってからにしようとランスロットは手元の書類に目をとおすのだった。






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