第325話 きれいになっていくわたくしを見てほしい人がいる。

 お風呂に入って、体と髪と顔のメンテナンスを終えて一晩寝たら、朝には猫の餌やりとトイレ掃除、冷たいシャワーにストレッチが待っている。

 この頃はそれに加えてメイキャップをする。

 メイクがうまくいくと、誰かに逢いたくなる。


 ゆうべはいつもより丁寧に優しい手つきでオールインワンを肌に塗ったし、よく眠れたから肌の調子はいい。

 CCクリームを顔に置いていくように塗って、ジュレファンデーションをパタパタとはたく。

 アイシャドウとチークをぼかして付けたら、あったかい飲み物で一息いれる。


 水分をとったら、リップペンシルで唇の輪郭をとり、リキッドルージュの今日はコーラル系。

 昨日はピュアレッドだったし、その前はホットピンクだった。

 毎日違う自分になれるってすてき。


 鏡を見ながら暗示をかける。

 今日のメイクはばっちりよ! とってもきれい。

 わたくしどんどんきれいになっていく。


 来年度が来れば年をとるし、正月がくれば死出の旅路の一里塚ではあるんだけれど、それでも毎日きれいでいたい。

 昼食がすんでルージュを初めから引き直したら、今度はね。

 大好きな誰かに届かないかな、と夢想する。


 わたくしのこと、見てくれるかな、って。

 きれいだよと、思ってくれるかなって。

 期待しちゃう! だってわたくし、自分の事好きになってる。


 誰かに好かれるに値すると思いたい。

 愛することは可能でも、愛されることはできないなんて、哀しいことを思うのはイヤ。

 もっともっと、大好きな誰かに、振り返ってほしいのよ。


 大丈夫。

 もっと、わたくし、幸せになれる。

 来年度だって、もっとずっとがんばれるわ。

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