第234話 2020/05/23/土 休憩きゅうけい!

 うだうだなんて、言いたくないが。

 このごろちょっとだけ忙しかった。

 主に内面が。


 もう、漫画や小説で思い悩んだり、あれこれ考えるのが楽しみな暇な学生じゃないんだ。

 心を落ち着けて、ゆったりしたい年頃なの。

 で、過去をじっくりふり返って見たい。


 まず、最初のつまづきは、父との価値観の違い。

 彼は、才能は叩けば叩くほどよくなると信じている。

 自分は叩かれて挫折した経験があるのに、だ。


 目上から可愛がられ、目下のものにも慕われて、社会の改善を求めて戦う、救世の人。

 しかし、そのあまりの天才性に、子供を上手く育てることができなかった。

 いま、実家の地元へ舞い戻って、自分だけの理論からなる結果を導こうとしている。


 まあ、本人が楽しいんならいいと思う。

 しかし、娘のトラウマはほとんどが彼が原因だ。


 彼が単身赴任をして、病に倒れた時、幼かったわたくしは、病院でひどい拒絶に遭った。

 そのとき、この人はもう、わたくしの父親ではない、と直感した。

 事実、それからの彼の言うことは、およそ子供のわたくしにとっては、耐えがたい仕打ちとなった。


 体罰は普通にあり、言葉の暴力に遭って、わたくしは自己への評価を著しく下げた。

 辛い目に遭ったと打ち明けたら、もっとひどい目に遭わされるのだ。

 わたくしは心を許せる存在を、産まれつきにして失っていた。


 父はおよそ子供にとって信頼に足る存在ではなかったし、わたくしはそれを知っていたから、歳に似合わぬほど賢かった。

 自分で賢くならねば、やっていけないほど苛烈だったのだ。

 しかし、それを世間は「ズルい」と評した。


 ズルくなどない。

 他人が一番には欲しがらぬものを手に入れ、磨いて宝とする。

 それを「おまえはズルい」などと言われるのはとても心外だし、間抜けな発言だと思う。


 わたくしは、あえて一歩さがることで、譲ることでより良い道を見つけてきたのだ。

 それができない輩にどうこう言われる筋合いはない。

 わたくしはある意味、スパルタで鍛えられたソルジャーだったのである。


 今は離れて暮らす父を誇りに思う。

 わたくしを鍛えてくれた、その一点のみにおいて、彼は父親の役割を果たした。

 今もそうである。






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