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夕食後、湧磨は盤面を睨む棋士のごとき形相で、ベッドの上でアグラを掻いてぐっと腕組みをしていた。その目の前には、一枚のCD-ROMケース。湧磨は腕組みを解き、それにゆっくりと手を伸ばす。が、
「っ……!」
ダメだ。どうしても手に取ることができない。
パソコンのモニタの中には、喫茶店のテーブルの向かいで文庫本へ目を落としつつ、時折こちらを見上げては微笑む湧磨の『彼女』――泉がいる。その目と目が合う度に湧磨は我に返り、MODデータ入りのCD-ROMへ伸ばしていた手を引っ込めてしまうのだった。
そうして今もまた崖の一歩手前で立ち止まった湧磨は、詰めていた息を大きく吐いて天井を仰ぎ見る。それから、ベッドの傍に置いておいた、アリシアから貰ったスーパーのビニール袋をなんとなく手に取る。
中には、大量のコードが絡みついた白い布と、折り畳んだノートの切れ端が乱雑に入れられている。その白い布を取り出して広げてみると、それは何やらニット帽のような形の帽子だった。しかし、帽子にしては布がかなり薄手である。
そう思いながらその帽子を見回して、湧磨はふと気づく。
――これは……アレだ。脳波を調べる時に頭に被る、あの帽子だ。
『先ほど言った闇オークションですけれど、それが開かれているのはネットの中ですの。その袋に入っているのは、そこへと行くのに必要な装置ですわ』
これを自分に渡した時、アリシアが言っていた言葉が耳に蘇る。
行くのに必要って……一体どういうことだ? 訝りながら、袋に入れられていたメモを見る。それには、CD-ROMの封筒に書かれていたのと同じ丸文字で、猫がキーボードの上を歩いてしまったのをそのまま利用したようなURLと、
『9時25分20秒~50秒の間にアクセスしてみゅん』
『パスワード:BISHOUJO YURIRIN』
という謎の言葉が書かれてある。
――みゅん、って……。どこかの方言か?
思いつつ、パソコンのモニタの時計を見ると、ちょうど時刻は九時二十五分に迫る頃である。湧磨はアクビをしながらデスクチェアへと移動し、帽子から伸びるケーブルの先についていたUSB端子をパソコンに接続してから、布ゴム製で伸縮性のあるそれを被ってみる。
「えーと……?」
アルファベットと数字が乱雑に入り交じったURLをアドレスバーに打ち込んで、時間を見るとちょうど指定された時間内だったので、パチン、とエンターキーを押した。
と、その瞬間、脳の奥から眼球へと向かっていくようなビリッとした痛みが走り――
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