雪兎ノ月15日
「いらっしゃいませ~」
商店街にある武器工房の看板娘、リオデレラは入ってきた客に笑顔を振り撒く。
「あ……リオデレラ」
客はミスズだった。珍しい友人の来店にリオデレラは興奮したように話かける。
まぁ、友人の来店は珍しいとかいっておきながらなんなのだが、コウは突剣の精練だかなんだかで毎週来店している。
「あれま~珍しいね!どうしたの?武器でも買うの?ウチの職人の腕は世界一だからね!いいやつが揃ってるよ!」
「ううん……武器はいいや。大概は素手でなんとかなるし。それに、武器は扱いにくい」
武器があった方が楽だと思うけど、リオデレラは首をかしげる。
「悪いが、買うつもりはないんだ。ただ、ちょっとリオデレラの顔が見たくてね。ここら辺に来たついでによってみただけ」
「およよ?ミスズも大概、暇人だねぇ」
わざとらしく茶化すようにリオデレラはミスズを突っつく。
「いつも、こんな昼間からほっつき歩いているわけじゃない。たまたまさ、たまたま」
そんなやり取りをしていると新しい客が店に入ってきた。およ、お客さんだ、ミスズ、ごめんね!また今度!と言い、リオデレラは先ほどミスズに向けた笑顔を浮かべる。
ミスズは暫く、そんなリオデレラの背中を見つめてた後、店から出ていった。
「シンデレラ、の様子はどんな感じじゃ?」
深く被った帽子の下から女にしては低い声がした。
「どんな感じも何も私が知っているリオデレラと変わりない」
少々イライラしているのか、ミスズは早口で答えた。
すると女はふぅと息を吐いた。
「そう」
ありがとう、十分よ、と女はミスズに封筒を渡す。
「ひとつ訊きたいのだけど、こんなことを知ってどうするつもりなの?」
「私の素性や目的は訊ねない。最初にそう言ったじゃろ?」
「……っ」
ミスズは言葉につまる。
「それにしても、リオデレラって皮肉な名前じゃの?ご両親は彼女がシンデレラの魂を持っていると気づいていたのじゃろうか?」
女はミスズに背を向ける。歌うように独り呟きながら、去って行く。
___可哀想なシンデレラ。どの時代に生まれても、シンデレラは幸せになりきれなかった。
……世界はバランスを取ろうとする。いつだってそう。シンデレラ程の創造主が生まれてしまったら、壊す側も数多く生まれてくる。
それに対抗できるようにシンデレラの近くには強い子たちが集まってくる。
全ては運命。神のシナリオに沿って生きていくもの。
___ああ、そういえば、この国には孫が住んでいたはずじゃ。強さ故に運命に巻き込まれる可哀想な可愛い孫。元気にしとるかのぉ……。様子だけでもこっそり見るか。
ミスズは呆然として女の背を見送った。
女は踊るように歩いて……ふいに、消えた。
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