第4話 凡人、神獣の修業が始まる

「わあぁぁぁああああ!」


 僕は今、空を飛んでます。ていうか、吹っ飛ばされてます。


「ほれ、しっかりと避けんか? 死ぬぞ?」

「無理ですってぇ!」


 原因は神狼様の氷魔法。音を置き去りにしてやって来る氷塊を避けるのが今の訓練だ。他にも基礎体力を上げるための訓練や、魔力量を増加させる訓練を並行してやっている。


 だけど僕は一般人だ。音速を超える攻撃を視認して避けるなんて出来ないし、足の速い魔物化した狼の走力に敵うはずもない。一応死なないように直撃を避けたりはしてくれているようだが、それでも生きた心地はしない。


「む。そろそろ昼だな。レイよ、早く昼飯を頼むのだ」


 昼食の用意も僕が担当だ。彼女たちは料理など出来ないのにとてもよく食べる。だから量を用意しないといけない。疲労困憊の状態で用意しないとだから、とてもきつい。


「……人間のご飯は美味しい」


 神竜様が一番よく食べる。人間の食べ物を味わってみたかったらしい。




 僕は神狼様から回避技術と感知技術を、神鳥様から対空戦闘技術を、神竜様から魔法理論と魔法操作を、神蛇様から対大型戦闘技術を、神人様から対人戦闘技術を、神霊様から魔法技術と薬学理論を、神龍様から総合戦闘技術を、そして全員からそれぞれから得意とする戦闘スタイルと魔法を教わった。


 食糧調達も主に狩りだから、教わったことの反復練習に役立っている。反復練習をしていると、新しいことを思いついたりして自分なりに進化させたりすることもできた。


 修業が始まってから一年が経っていた。


 最近は十日に一度、神獣様たちと実践形式で戦う。負けるほかないけど。その度に改善点を挙げてくれる。とても優しい。


 今日がその日だ。相手は神狼様。攻防どちらにも秀でている。


「では、いくぞ」


 氷魔法を飛ばしてくる。僕は開始と同時に前に詰める。得物は固い木の棒。氷魔法を避けて、攻撃を仕掛ける。

 攻撃をする際、神狼様がどこに避けるかを予測する。神狼様の手がぎりぎり届かないところから左から横に薙ぐ。神狼様は後ろか右に避けるしかない。だけど僕との距離が近いから右に避ける可能性が高い。だから僕は薙ぎながら右に跳ぶ。


「ぬ?」


 予想通り右に跳んでくれた。勢いのまま棒を引き、全身を使って突く。


 神狼様は避けた。僕の側面に掌底を打ち込もうとしてくる。予想済みだ。僕は左手に強化魔法を集中的に展開し、身体と掌底の間に滑り込ませて防御する。当たる瞬間に反対方向に跳んで威力を殺す。


 それでも左手は痛くなる。だけど構ってはいられない。すぐに構えて対峙する。


「今ので終わらぬか。だいぶ強くなっているようじゃの」

「まだまだですけどね」


 言葉を交わしながらも次の戦術を組み上げる。考えを止める余裕なんてない。神獣様たちは最強だ。しかも僕は片目が潰れて視界が狭い。全身全霊をかけて挑まないと僕が死ぬ。



◇◇◇◇◇




 終わった……。結局一撃も当てられずに負けた。敗因は僕の体力切れだ。動きが鈍くなったところをやられた。体力がまだ持たない。神狼様が手加減していたからそこまで長引いたと考えたほうがいいけど。


「動きはなかなかよかったと思うぞ? 体力面はこれからつけるとして、問題は攻撃手段じゃな」

「攻撃手段?」


 どういうことだろう?


「攻撃のパターンが一辺倒になってきておった。攻撃手段を変えるのもいいが、リズムも変えないと駄目じゃ」


 つまりは一定のリズムで似たような動きしかできていないということか。神獣様たちからそれぞれの戦闘スタイルを教えてもらっているが、身に着けたとは言えない。どうしてもずれが生じてしまうのだ。


「ありがとうございました……」


 これからの課題は戦術の多様化かな。ほかにもいくつかあるけど基礎がまだ出来ていない状態だから戦闘に組み入れるのはまだだ。


「……お腹空いた。ご飯早く」

「はい、ただいま!」


 神竜様が催促する。重い体で、急いで支度を始める。これが僕の最近の一日だ。



◇◇◇◇◇



「僕はいつになったら帰れるんですか?」


 食事中に神獣様たちに尋ねる。もう一年が経っている。妹が心配でならない。


「強くなるまでは駄目よ。そうでないとあなたを生かした甲斐がないもの」


 まだまだ弱いのか。


「帰りたいならば私らに認められよ。自然は強者こそ全ての世界じゃ。強くなければ何も従えられん」

「それにまだ教えてないことがたくさんあるからね~。私は全部教えるまでは返すつもりはないよ~」

「今は全てが中途半端である。中途半端は一番弱い状態だ。手札が多くなり、どれを使うか迷っているようなものであるからな、相応の経験と思考がなくてはならん」


 そこまで言われては、引き下がるしかない。神獣様たちに認められるように今まで以上に頑張らなくては。


「それとな? 私らのことを『神~様』『神獣様』と呼んでおるが、それは止めてくれ。お主は私らの家族のようなものだ。畏まった呼び方をしないでくれ。あと敬語もやめてくれ」

「ですが、名前が……」

「そういえば、私らには名前がなかったな。ではお主が決めてくれ。それと敬語もやめてくれ」


 名前か……。



◇◇◇◇◇



 僕は神じゅ――――彼女らに名前を付けた。


 神狼様はフェル。


 神鳥様はフェニ。


 神霊様はライア。


 神人様はセレナ。


 神蛇様はヨルム。


 神竜様はレビィ。


 神龍様はルティ。



 皆気に入ってくれたようだし、後は修業を頑張ろう。

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