人の醜さ
「ゴブリンキングにオークキング、ワイバーンにゴーレムと、サイクロプスの他に色々魔物」
「多いな、だが楽しみだ」
マルコのパーティーとレックスのパーティーは、この上位クラスの魔物が大量にいる中、その顔に笑みを浮かべた。
「なぉ、なんでお前らそんなに楽しそうなんだ?」
「そんなもん決まってるだろ、日頃のストレス解消さ」
他の冒険者も首を縦に振り、うんうんと言っている。
「だが、余裕を持っていいのは、強者のみに許されることだぞ?」
「お前、それは俺達が、弱者と言いたいのか」
「まぁ、俺からしたら全員弱者だがな」
「てめぇ!!」
俺の言葉が頭にきたのか、マルコは顔を真っ赤にし殴りかかろうとしてきた。
「おい、お前ら!さっき言ったことをもうわすれたのか!俺からが本番だと言ったんだ!!」
レミールさんが後ろで叫んでいる。
マルコは「チッ!」と舌打ちして離れていった。
レックスとフルトも、少し睨んで行った。
「ご主人様、あんなこと言ってよかったの?」
「あぁ、別にいいんだ。あいつら少し調子乗っていたからな」
「どういうことです?ご主人」
「さっきレミールさんに気を引き締めろって、忠告されたのにあいつらは笑っていた。それはまだ、ちゃんと気を引き締めていない証拠だ」
「「なるほどぉー」」
二人は納得したのか、手のひらをぽんと叩いた
「さて、それはお前らもだぞ。危ないと思ったらここに帰ってこい。俺はお前らが死ぬと悲しむから、しっかり生きろよ」
「わかった!ご主人様!」
「はいです!ご主人!」
魔物達は一斉に走り出した。
それを、レックスのパーティーとマルコパーティー、ハクとルナが迎え撃った。
俺はそれをボーッと眺めている。
レミールさんも、後から矢を放っている。
順調に、敵の数が減っていっている。
だが、
「ちくしょう!どれだけ倒しても全く減らねぇ!」
そうだ、敵の数は約2万。
たった8人で倒せる量じゃない。
だがそれを覚悟してここに来たのだ。
今更弱音を吐いても仕方ない。
俺はこちらに来る魔物を斬り捨てながら、周りを広い視野で見ていた。
そしてわかった。
やはりそうだ。少しずつ、少しずつ、こちらが押されている。
回復ポーションか魔力が無くなってきたのだろう。
前衛で戦っている奴らも、体力がかなり減っている。
魔物の数は、残り約1万5000。4分の1しか倒してねぇ。
誰かが倒されれば、総崩れになるだろう。
と、考えていると、その時はすぐにやってきた。
それは、マルコとチルが前衛で戦っていた時、雑魚の魔物が多くいる真ん中で、チルが転倒した。
その姿を見て、雑魚の魔物、ゴブリンとオークが一気に襲いかかってきた。
ゴブリンとオークの目的、それは他種族の異性を犯し、無理やり孕ませ、遊び尽くしたあと殺すこと。
チルは、美人の部類に入る女の子だ。
そんな子が目の前で転倒したのを見ると、すごい勢いで襲いかかっていた。
「あ、ああ、あぁぁあああ!!」
チルは、絶望の顔をして身体を震わせていた。
「ち、チル!待ってろ、今すぐ助けてやる!」
マルコは、チルが多くの魔物に囲まれている姿を見て、すぐに向かった。
それを見ていたネルは、魔法でマルコに近づく魔物を倒している。
「チル、大丈夫か」
「ま、マルコぉ〜」
マルコは無事、チルのところにたどり着けた。
チルは、マルコに助けてもらったことに安心し、怯えた声で抱き着いていた。
「お姉ちゃん、大丈夫!」
そこにたどり着けたネルも、チルを心配し近寄った。
「えぇ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう、ネル」
ネルも安心している様子だ。
だがまだそこは魔物に囲まれている場所。
そんな所では安心できない。
そして、マルコは驚くべき行動に出た。
「え?」
マルコは、一緒にいたチルの妹であるネルを魔物の中に突き出したのだ。
「もう、大丈夫だから。私たちのために死んで」
チルが一言いうと、マルコとチルはネルに背を向け逃げるための道を作るため、魔物に突撃した。
ほう、そんな簡単に実の妹を犠牲に出来るのか。
「れ、レッグズぅぅうう!」
逆方向からは、フルトの声が聞こえる。
見てみると、そこには俺が討伐したことのあるメタルウルフが数十匹いて、その中でレックスが|腸(はらわた)を食われていた。
その近くで泣き叫んでいフルトにもメタルウルフの群れがより、手足を食いちぎられた。
あれ?そう言えば副ギルドマスターがいない。みんなが逃げている時に、一緒に逃げたのかな?
おっと、王国に向かっている気配を感じたので後ろを振り向くと、レミールさんが逃げてた。
【魔眼】発動!心眼!
心眼は、その者の心の中で考えていることが見える能力だ。
さて、レミールさんは今どんなことを考えているのだろう?
(や、やっぱり勝てないんだ。今はあいつらに注意が向いてる。後方にいて助かった、逃げれる。は、ははは、ははははは。生き残れる!!)
総崩れの中、頭の中でパニックが起こったのだろう。
ギルドマスターとは思えない行動だな。
やっぱり、|みんな(神様たち)が言っていた通り、人間は自分の身に危険が及んだ時、ほかの人を見捨てて自分だけ生き残ろうとするんだな。
そして、これもその人間だから思うことだろう。
人間とは、別に関わりがない他人が死のうと、悲しみを感じず、普通の日常を生きていく。
俺は呆れながら逃げながら顔を歪めているレミールさんの姿を見ていた。
すると、
「きゃあああ!」
レミールさんはワイバーンに足を噛まれ、空で遊ばれている。
あ、今足食われたな。あー落ちた先にもう一体のワイバーンが口開けて待ってるわ。
「ハク、ルナ。ネルを助けてやれ」
「はいです!」
「了解!」
ハクとルナは勢いよく走り、ネルがいる魔物の中に飛び込んだ。
「あ、あなた達は」
ネルは弱々しい声で話した。
「私たちはご主人様のお願いできました」
「あなたを助けるため」
「ご、ご主人様?」
「でもまずは、そんなことよりもこいつらを何とかしなくちゃね。ルナ」
「そうだね、ハク」
自分たちを囲んでいる数は、だいたい五十匹。倒せる。
私はルナと同時に、地面を蹴った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私はいま、信じられないものを見ている。
目の前で、12歳ぐらいの少女二人がオークやゴブリンを蹴散らしている。
私ことネルは、幼馴染であるマルコとお姉ちゃんのチルと一緒に冒険者をしていた。
私は戦闘があまり好きじゃなかったので、後方の魔法使いになった。
パーティーを組み、努力を重ねAランクまで上がったのだ。
そして今日、|魔物の大行進(モンスターパレード)が発生して私は逃げようとした。
だがパーティーメンバーのお姉ちゃんとマルコはその戦いに参加した。
本当は逃げたい、逃げたかった。
でも、パーティーメンバーを置いていくことは出来なかったので、自分も参加した。
最初は順調に勝っていったのに、チルお姉ちゃんが転倒したことにより、崩れた。
マルコはチルお姉ちゃんを助けるため、魔物が多くいる場所に立ち向かった。
私もお姉ちゃんが助けたかったので手伝った。
そして無事助けることが出来たので安心できた。嬉しかった。
そんな感情が心を満たした時、不意に自分の体が後に押された気がした。
顔を上げて見てみると、目の前でマルコとチルが顔を歪めている姿が目に映った。
この二人は付き合っていたのだ。
愛し合う二人、だが周りは魔物に囲まれている。生き抜くためには犠牲を払わなければならない。
そこで私は選ばれたのだ。生贄として。
マルコとチルお姉ちゃんは魔物を倒してどんどん離れていく。
それと違い私の前には、魔物が襲いかかろうとしている。
(あぁ、もうダメだ。私は見捨てられたんだ)
そう、現実を受け入れ私は目を閉じた。
だがいつまでたっても襲ってこない。
恐る恐る目を開くと、そこには二人の少女が魔物を蹴散らしている姿が映った。
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