第5章 腐った白百合

第94話01話 とある腐女子によるネタバレ③

 

「──不憫系薄幸美少女だった!」


4限目の授業が終わり皆が片付けをする中、そんな叫びがクラス中に響き渡った。

そんな事をするのは唯1人、須藤 由奈だけだ。


「なんの事?」


他のクラスで叫び声を発する変人、もとい須藤 由奈の友人である為永 依子は表情1つ変えることなく尋ねた。


「レイアス様の婚約者だよ!!」


「レイアス? ……あぁ、例のゲームのキャラクターね」


依子は聞き覚えのある名前に、あぁ、あれねと相槌を打った。

依子は由奈から毎日のように、ゲームの話を語られている。


「依ちゃんが珍しく話した内容を覚えている、だとっ!!? 何時もは適当に聞き流してるから、後で振っても全く覚えてないのに!?」


「失礼ね、覚えてるわよ……少しは」


「少しって……………」


少しは興味を持ってくれたのかと喜ぶ由奈であったが、その期待は一瞬で崩れ去った。

やはり、依子は乙女ゲームにこれっぽっちも、興味など持っていなかったのだ。


「……まぁ、いーや。それが依ちゃんだしね!」


「相槌打ってるだけましでしょ」


由奈は少し落ち込みはしたものの、すぐに気分を切り替えて依子の前の席についた。

この時、このクラスにいたものは、皆嫌な予感を感じて弁当を急いで食べ始めた。


──そしてその予感は、この後的中することになる。


「それで婚約者がどうしたって?」


「そうそう聞いて! 昨日ついにレイアス様のルートが解放されて、プレイしたんだけど婚約者が超美少女でね! 他のキャラにも婚約者いるんだけど、格が違うスペックだったんだよ!!」


依子が話を振ると、由奈は勢いよく語り始める。


「格が違う?」


「うん、そもそも婚約者、ユーリアって言うんだけど、他の婚約者達は悪役令嬢ポジなのに、一人だけライバルポジ? 最後にはレイアス様を、ヒロインに託すみたいな感じになるんだよね。最初、警戒してたのに、結局凄いいい人キャラだったし。しかもぶっちゃけ、容姿も頭脳も魔法もヒロインより、高けぇーじゃねぇかっ!? ふざけんな! ってゆースペックだったし!」


「……そのレイアスとやらが、ヒロインに走った理由が不明ね」


誰得だよ、と少しブスくれた様子の由奈に依子が尋ねた。


「んー、唯一の欠点は病弱ってところだったんだよね。あとは、あーあれ、完璧すぎてちょっとみたいな感じだったんじゃない? ユーリアってノブリス・オブリージュの体現者ってゆーか、最後は皆のために命を投げ出すキャラだし」


「話を聞いてると、その子がヒロインでもよかったんじゃない?」


「まあねー、でも私はあんな自己犠牲精神の塊みたいな人は嫌いだけどね」


普段の楽しそうな様子とは一転、不貞腐れた様子の由奈。


「あら、厳しいわね?」


そんな由奈の珍しい様子に、依子は食事の箸を止めた。


「だって、最後にヒロイン達の為に死ぬなんて、後味悪すぎだし。レイアス様は凄い素敵だったのに、残念過ぎる!」


「……確かに嫌な奴が酷い目にあってもざまぁとしか思わないけど、いい人が酷い目に合うのは気分悪いわね」


「そうそう! お陰で何かプレイした後モヤモヤしちゃって、ヴィンセント様×レイアス様の薄い本をポチッとしちゃった! もうレイアス様が■△▽▲●■□□▲ピー(自主規制)で、◆▲■●△▽□▲◆■■ピー(自主規制)だったんだ!」


由奈がお昼に似つかわしくない禁止用語を発した瞬間、クラス全員が一斉に教室から出ていったのであった。







◆◆◆◆◆◆◆◆







「……はっ!」


早朝全身に汗をかいて、俺は目が覚めた。

窓の外はまだ暗い。


「嫌な夢、見た……」


あんな夢を見たせいか、俺の目覚めは最悪だった。


「あの腐女子には、慎みという言葉はないのか……」


須藤 由奈が他のクラスでTPOに反した話をするのは、1度や2度ではなかった。

それこそ、クラスメイトがそれとなく注意をした事もある。

この世界に生まれて、語られた知識には多少……ほんの少しは助けられた事もあったが、それとこれとは話が別だ。

あの女には、遠慮や慎みなど全くあったもんじゃなかった。


「……あの腐女子、もし次顔を合わせる事があったら絶対殴る」


俺は睡眠を害された不快感から、そう誓うのだった。

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